京の晩夏 今昔風景

もうすぐお盆ですね。お正月が「おめでたい、おめでたい」の迎春モードであっという間に過ぎてしまうのに対して、お盆にはどこかノスタルジックな響きがあり、いい意味での「田舎」という言葉が浮かんできませんか。ノスタルジーといえば懐古趣味。そこで今回は京都のお盆について、今と昔を比べてみようと思います。

大文字送り火

京都のお盆といえば、まずはコレ。よく「大文字焼き」という方がいらっしゃいますが、「大文字送り火」が正解です。「大文字焼きて、安もんのマンジュウやないっちゅうねん!」とは、京都を愛してやまないある方の言です。

この送り火は別名「五山の送り火」ともいわれるように「大文字」「妙法」「船形」「鳥居形」「左大文字」の5つの山に火が焚かれます。しかし、昔(たぶん江戸時代)は、この5つに加えて市原の「い」、鳴滝の「一」、松尾山の「竹の先に鈴」、北嵯峨の「蛇」、観空寺の「長刀」の5つの山でも送り火が焚かれていたそうです。つまり、「十山の送り火」だったという訳です。

さて、この送り火の鑑賞スポットとしては、出町柳をはじめ賀茂川周辺が有名ですが、昔は家庭の2階から普通に見えたそうです。いつの頃からかマンションなど高いビルが立ちはじめ、視界を遮ってしまったようです。街が発展するということは、同時に風情を奪っていくものなんですね。
 
街の風景が変わろうとしても、人が人を想う気持ちは悠久の輝きを放つ。山に火が点るそのとき、祈りの心を灯してそっと手を合わせましょう。
 

京の七夕

私の子どものころは七夕といえば、7月7日がその日として親や先生から教えられました。でも10数年ほど前からでしょうか、堀川をはじめ市内府下のあちこちで8月上旬からお盆にかけて、七夕まつりが開催されるようになりました。私個人としては、七夕の「七」と7月のつながりもあってか、七夕=7月が刷り込まれていて、8月の七夕には少々の違和感を覚えてしまうのが正直なところです。

そもそもなぜ8月に七夕なのでしょうか。そういえば有名な仙台の七夕まつりも8月です。七夕の起源は中国・漢の時代にさかのぼり、奈良時代に日本に伝わってきたそうです。その当時から七夕といえば7月7日だったのですが、明治時代に暦が太陰暦(旧暦)から太陽暦にあらためられ、約1ヶ月のズレが生じたのです。つまり旧暦の7月7日は現代の8月上旬にあたるわけです。そこで七夕の起源や本来の意味を見直そうと、最近各地で8月に七夕祭りが催されるようになったというわけです。

ところで、さきほど私は「違和感」と申しましたが、よく考えれば合理的なことに気づきました。七夕といえば織姫と彦星や天の川に代表されるように星空が舞台。でも7月7日といえば梅雨まっただ中。たいていは舞台幕のすき間からチラチラと星が見える程度で最悪の場合、幕が降りたままで見えないなんてことも。その点、8月なら満天の夜空を仰ぐことができるので、なんとなくナットクです。まあここは、あまり細かいことは気にせず、「ええとこどり」の日本人気質をいかして7月と8月の2回、七夕を楽しみましょう。
 

 

地蔵盆

お盆から8月後半にかけて京都の路地では、通行止めの看板が立ち並びます。そう、地蔵盆が開催されるためです。無形文化遺産に登録されるくらいなので、全国共通の行事かと思いきや、京都を中心とした近畿地方での行事であり、関東ではほとんど見られないそうです。意外でした。

この地蔵盆は「子どものためのお盆」ともいわれ、おやつタイムやおもちゃのくじ引きが定番のプログラムです。私が小学生のころは、近所の子どもたちがたくさん集まり、当番にあたったお母さま方はキリキリ舞いをしていたものです。

翻って現在、地蔵盆は変わらず行われていますが、どうも趣が異なっています。肝心の子どもたちの姿があまり見えないのです。塾や習いごとに忙しいから?それもあるでしょうが、そもそも子どもの数が絶対的に減ってしまったからです。対照的にお年寄りの数は当時よりも圧倒的に増え、しかも皆さんお元気。したがって地蔵盆がお年寄りの憩いの場になったように思えます。ある意味少子高齢化を端的に表しているのがこの地蔵盆なのかもしれません。
 
 

夏の終わりといえば…

さて、お盆が終わると朝夕はめっきり涼しくなり、セミの鳴き声も少しずつフェードアウト。それが昭和の秋の足音でした。ところが当世の8月下旬は秋の訪れどころか、天気予報を見るのがイヤになるくらい、情け容赦なく陽射しが照りつける毎日です。

こんなに暑いのに最近の小中学校は9月を待たずして2学期が始まってしまいます。私のころは「24時間テレビ愛は地球を救う」を見ると、「ああ、夏休みももう終わりやなあ」という名残惜しさと、すっかり忘れていた(放ったらかしにしていた)宿題の2文字が重くのしかかる条件反射のキッカケになる番組でした。しかし、今はヘタをすれば既に新学期が始まっていて、最後の力走をするマラソンランナーの応援ソング「負けないで」をBGMに、月曜日の時間割の確認をしている…。そんな光景なのかもしれません。
 
 

さて、お盆の今と昔を眺めてまいりましたが、言いかえれば平成と昭和の違いでもありました。いつの日か令和と平成の違い、なんて特集を組む日が来るのでしょうね。しかし、時代は変われどもお盆とは本来「ご先祖様をお迎えし、おもてなしし、またお帰りを見送る行事」であることをしっかりと認識し、ご先祖様への感謝の心を忘れないようにしたいものです。
 
 

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