西陣に咲くキミドリ色の桜?

コロナコロナでなんだか息苦しい毎日。各地でイベント中止が相次ぎ、お花見も自粛モードになりそうな雰囲気ですよね。今年はさびしい桜シーズンになるかも。でもそれでは、せっかく春を待って咲いてくれる桜に申し訳ないですし、やっぱりお花見はしたいですよね。となると、人混みにまぎれることなく桜を楽しめるスポットってことになります。そこで今回は編集部の地元からほど近い西陣の街で、可憐に“そっと”咲く桜をご紹介したいと思います。観光の方はもちろん、地元の方にもお散歩がてらに楽しんでいただければうれしいです。

そっと咲く桜 その①雨宝院

上京区・上立売通の智恵光院を西に入ってすぐの角に北向山 雨宝院(ほっこうざん うほういん)というお寺があります。少し入り組んだ道にあるので、地元でもご存知ない方も多いかと思います。弘法大師により建立された雨宝院は、平安時代に嵯峨天皇が病にかかった際、インド仏教の守護神とされる象頭人身の大聖歓喜天(だいしょうかんぎてん)を刻んで祈祷したことに始まったとされています。大聖歓喜天を略して「西陣の聖天さん」と呼ばれ、いつしかこの辺りが「聖天町」と名付けられました。最初は真言宗のお寺だったのが、後に禅宗に改められたそうです。お寺自体の宗派替えっていうのもあるんですね。

この雨宝院の決して広いとはいえない境内が、知る人ぞ知る桜スポットとして知られています。(日本語的になんかヘンですね。でもニュアンスは伝わったかと)満開時に桜の花びらで境内が埋めつくされる様は満天桜といえます。コンパクトな境内ならではの風情ですね。
 

黄緑色の桜って?

雨宝院のイチオシは、御衣黄桜(ぎょいこうざくら)とよばれる、黄緑色の花びらを開かせる桜です。貴族の衣服に使われる萌葱色(もえぎいろ=シブい黄緑色)に似ていることから命名されたといわれており、一輪一輪がまさに貴族の名にふさわしい気品をそなえた桜ぶりを魅せてくれます。御衣黄桜は例年4月中旬に開花する遅咲き桜ですが、暖冬だった今年は開花が早まるかもしれません。雨宝院では他にも歓喜桜、観音桜、松月桜など、その名前だけでも美しさが伝わってくる多くの桜が楽しめます。

御衣黄桜

また、境内には決して涸れない井戸といわれる「染殿井」があり、西陣五水のひとつとされています。染色に適した水であることから染殿井と名付けられました。西陣織で名を馳せた同地らしい逸話です。きっと、この名水が桜を美しい彩りに染めてくれるのでしょうね。このように見どころ満載の雨宝院は、西陣の宅地街にあるので静かに桜を楽しめる名所です。

染殿井

少しだけ足を延ばすと…

雨宝院から2分ほど南に歩くと「桜井公園」という2001年、つまり今世紀にできたばかりの公園が見えてきます。まちづくりコンクール優秀賞をゲットした、評判のきれいな公園です。

この地は先ほどご紹介した西陣五水のひとつ「桜井」の地にちなんで「桜井町」と名づけられていることもあり、桜の木がたくさん植えられています。雨宝院を訪れたならぜひ桜井公園の桜も楽しんでいただきたいです。といいますか、今出川から北上したら桜井公園のほうが先に目に入ることになりますが…。

さらに公園のすこし南には、源義経が奥州へ旅立つ際に旅の安全を祈願して出発したといわれる首途八幡宮があります。首途は「かどで」と読み、出発を意味する「門出」を昔は「首途」と書きました。と、ここまで書いて気づいたのですが、智恵光院通りのこの界隈はプチ観光ルートといえるんじゃないでしょうか。

首途八幡宮

そっと咲く桜 その②水火天満宮

市バス9番に乗って北上し、堀川今出川を越えて3つめのバス停「天神公園前」で降りると、公園北隣の奥にひっそりと佇んでいる神社があります。北野さんで有名な菅原道真公をご祭神とする「水火天満宮」です。一説には日本最古の天満宮ともいわれています。

水火天満宮はその名の通り、水難や火難の厄除けとして信仰されています。この場所で水難はないでしょ?と思われる方がいらっしゃるかと思いますが、鴨川が年中行事のように氾濫していた昔の人々にとって水害は切実な問題でした。それゆえ地域の守り神として崇められるとともに北野天満宮と同じように「天神さん」として親しまれています。また、境内には玉子石という石が祀られていて、妊娠5ヶ月目の妊婦が拝むと安産になるといわれています。

玉子石

この水火天満宮も決して広くはない、こぢんまりとした神社ですが、一番のおススメは境内を覆いつくす紅枝垂れ桜のライトアップです。

こう言ってはなんですが、この規模の神社でライトアップをしているのは珍しく、私も10数年前にこの地に転職するまで知りませんでした。ある日の夜遅くに堀川を通ると、狭い間口の鳥居から妖しくこぼれる灯りが目に入りました。怖がりの私ですが、その時はなぜか吸い寄せられるように誘われて奥まで足を踏み入れると、そこには見事な紅桜が神々しく照らし出されていたのです。辺りには小石が敷きつめられていて、静まりかえった境内に響く「シャリシャリ…」という足音がまるで時が止まったかのようになんとも厳かな気分にさせてくれました。私にとっては妖艶な桜スポットといったところでしょうか。また、比較的夜遅く(たぶん22~23時くらい?)までライトアップされているのも、夜型の私にとってはありがたいことです。
 

桜のチカラ

このように、桜の見どころって案外身近にあるものなんですよね。お花見っていうと「レジャーシートとお弁当をもって遠くまで」ってイメージがありますが、みなさんの街にもきっと「そっと咲いている桜でそっと楽しめる」名所があるはず。コロナで晴れない気持ちになりがちですが、桜には人に笑みをもたらす不思議な力があります。世界規模で感染症が流行しているなか、あまり軽々しくは言えないですが「病は気から」と申します。西陣に咲き誇る桜吹雪で、気持ちだけでもコロナ騒動を吹き飛ばしたいものですね。
 

(編集部/吉川哲史) 

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この記事を書いたライター

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ