京都の学区はとっても大事(後編)知らなきゃ困る!学区の役割 -京都の「町」の不思議(その4)-

もしかして驚くほど短くなっていたかもしれない? 京都の長〜い住所

京都の学区の話題、後編です。
前編の最後で京都の「旧市街地の番地は(一部の例外を除いて)学区ごとについている」背景をお話ししました。正確に言えば旧市街地の番地は明治5年時点での上京・下京33ずつの「区」ごとにつけられています。

さてここからは私が勝手に考えたことです(笑)
京都の旧市街地の住所、まず66の「区」に分かれて、その「区」の中で番地が付けられているとしたら…一つの「区」の中では番地さえあれば場所を特定でき、町名は関係ないですよね。
ということは…もしかして京都のあの長〜い住所って、びっくりするほど短くなったのではないでしょうか? つまり上京・下京33ずつの区番号と番地だけでピンポイントで場所が特定できるはずです!

たとえば当時の上京3区にある乾隆小学校の住所、必要なのは「上京3区+番地」だけ、これで郵便だって届いたはずです。実際にハガキに書いて比べるとご覧の通り18文字も少なくなります。

もしもこの時に住所を「区」の番号と番地だけで表していたら京都の旧市街地は全国でも屈指の住所の短い都市になったはずです。右側のハガキでは「京都の住所はなぜ長い?」なんて記事も絶対に存在しなかったでしょう(笑)

でも昔ながらの通り名から住所を示す習慣と自分たちの「町」への愛着が現在の長い住所表記を残したのかもしれません。たしかに短い住所は効率的ですが「上京3区919-3」ではこの町の顔が全く見えません。「寺之内」「千本」「姥ケ寺之前」と方角があるからこそ初めての人でも町の雰囲気が想像でき、主な通りからの道順もすぐ分かる、これが京都の良さではないでしょうか。
なお「区」の数字や学区の名前を書いて郵便を出すと、現在のシステムでは全く処理できず郵便屋さんも大迷惑なので右側の書き方は絶対にマネしないでください(笑)。郵便番号と町名と番地はちゃんと書いてくださいね。

▶︎プロの配達員が語る京都の宅配事情 part1



住んでみないと分からない、京都市民の一大イベント「区民運動会」

戦国時代からの仕組みを行政システムに取り入れた「学区」は京都市民の日常生活にとっても身近な存在です。国勢調査の統計単位など行政区の下のいろんな単位として生きていて学区での行事もたくさんあります。

その中でも京都市民の一大イベント「区民運動会」、ここでの「区民」は中京区民や伏見区民の意味ではなく「学区民」のことです。10月頃に学区内の町内会が集結して対抗戦を繰り広げます。私の学区では全部の種目で3位まで表彰されるのでどの町内も賞状をもらうチャンスがあり、もらった賞状は町内のお地蔵さんに飾っています。
9月頃になると町内会長さんやタイシンのおじさんが「うちの町内は年寄りばっかりやからリレーや綱引きは参加するだけや。そやけど玉入れは優勝するで! せーの、で一斉に籠の上めがけて玉放って上でぶつけて籠に落とすんや、バラバラに放ったらあかんで。ヨソにこの作戦言うたらあかんで!」みたいな感じでハッパかけます(笑)

→→ここで生粋の京都人が一発で分かる問題。
上の文章のタイシンを漢字で書けますか?5秒で分かれば生粋の京都人です! 正解はこの記事の最後にあります。
『京都をつなぐ無形文化遺産 京の年中行事』(京都市文化市民局)より

でも「私、京都に下宿してるだけだし、区民運動会なんかでアウェイ気分味わうの嫌だし、学区なんて私には関係ないわ!」という方も多いと思います。
でもそうおっしゃるあなた、学区にはさらに大切な役割があります。
緊急の時「自分の住んでいる学区を知らないと命にかかわる!?」かもしれませんよ!


「学区」知らなきゃ避難もできない!

学区の情報でいちばん緊急性の高いこと、それは大雨や地震の時の緊急の避難情報です。
京都市では「避難指示は学区単位で出される」、そして「避難所も学区単位で設置される」のです。住所の区や町の単位ではありません。ですから「自分の学区を知らないと避難指示も分からない、避難所がどこかも分からない」のです。しかも今まででご承知の通り、特に旧市街地では住所の中には学区名はいっさい出てこないのです。

こちらは平成30年西日本豪雨の日の京都市での避難情報画面です。東山区では次々に学区名が並び、多くは住所から分からない名前です。もし並んでいるのが学区名だと分からなければ大雨の中で自分が避難しなければいけない状況になっていることが分からないかもしれません。

また周辺の新市街地では学区名が住所の地域名と同じ地域もありますが、実はこの地域こそ要注意! 例えば住所が「北区紫野○○町」であっても紫野学区とは限らず、紫野・楽只・柏野・待鳳・鳳徳の5つの学区にまたがっています。上の北区の避難指示を見て、住所から紫野学区と思い込んで大雨の中をやっとの思いで紫野小学校までたどり着いても、実は行くべき避難所とは違っていた、ということになりかねません。
というわけで京都に住んでいる限り「自分の町が属する学区を正しく覚える」ことはとても大切です。ぜひご自身の学区と避難場所を確認してみてください。

さて長くなってしまいましたが、第3回の後半から始まった「学区」の話題もようやく終わりです。これまでの「京都の『町』の不思議」シリーズでは京都の住所のややこしさばかりが皆さんの印象に残ったかもしれません。でも京都の住所や町名には意外な便利さ、町名のまとまりの美しさなども数多くあります。次回はこうした話題を取り上げたいと思います。

たくさんの賞状に囲まれ、きれいにお化粧された町内のお地蔵さん、ずっと伝えていきたい京都の風景だと思います。 (京都市北区 紫野下築山町にて)
「生粋の京都人が分かる問題」 → 「タイシン」 を漢字で書くと?
正解は「体振」、学区や町内会ごとの体育振興委員や体育振興会の略称で、区民運動会などの実行部隊、私の学区では「タイシン」の「シ」にアクセントがあります。
<参考文献>
・「近世京都町組発達史-新版・公同沿革史」(秋山國三)
・「転生の都市・京都」(辻ミチ子)
・「信長が見た戦国京都」(河内将芳)
・「京都学校物語」(京都市学校歴史博物館)
・フィールドミュージアム京都(京都市歴史資料館)       ほか
よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

 
京都市中京区生まれ、北区紫野育ち、民間企業に37年間勤務
祇園祭の魅力が忘れられず、定年を機会に埼玉県から帰郷、大学院に入学し民俗学を学ぶ
祇園祭を中心に京都の祭り・民俗行事、平安京の歴史、京都の地理・町の形成などを研究
京都府文化財保護課での祭り行事調査に参画中

現在、佛教大学非常勤講師、京都民俗学会理事、日本民俗学会会員

|京都の祭り・歴史研究家|京都の町名/京都の通り/番地/山鉾町