今回は、梅小路公園から山陰本線に沿って北に上がり、京都市中央卸売市場に向かいました。市場の中の新水産棟Ⅰ期エリア(鮮魚部門)は2021(令和3)年9月にリニューアル・オープンしたばかりで、エリア毎に最適温度管理を行うコールドチェーンが確立されるなど、最新設備が導入されました。この市場には1927(昭和2)年に日本で最初に造られた、中央卸売市場としての90年を超える輝かしい歴史がありますので、『京都市中央卸売市場』とその東側の『島原』周辺を訪ね歩きます。
ご案内
京都市中央卸売市場の構内は南北に細長い。五条通から七条通まで、山陰本線にピッタリ寄り添う南北760メートルの長さだ。
中央卸売市場法(現卸売市場法)に基づき1927(昭和2)年に日本ではじめて開設された京都市中央卸売市場は、18(大正7)年夏の米騒動をきっかけに設置された公設市場が始まりだ。米騒動に驚いた京都市は、物価高騰のおりに良質で安価な青物を恒常的に市民に提供するため、公設市場の設置に乗りだした。
米騒動直後に七条・北野・川端・新町頭(しんまちがしら)・壬生・正面の6か所で公設市場を設置し、27(昭和2)年に八条、翌年下鴨・船岡、30(同5)年に田中と増設していく。31(同6)年の市町村編入により伏見市が開設した丹波橋市場を引き継ぎ、35(同10)年には花園・嵯峨を増設した。
公設市場は、当初生活困窮者に食料品を円滑供給する救済事業とみなされていたが、1920年代中頃になると生活難がある程度解消し、一般市価の基準を示し安定的な流通をうながす経済政策の一環と考えられるようになった。
公設市場が増えてくると、その機能を十分発揮させるため中央市場が必要であるという意見が強くなり、23(大正12)年に中央卸売市場法が公布された。食料品の円滑供給と価格決定の公正化を目的とする同法は、貯蔵施設や鉄道引込線などを整備した中央市場の設置を地方公共団体にうながした。
これを受け、京都市はただちに用地選定に入り、山陰本線丹波口駅西側の27,000余坪(約8.9ヘクタール)が選ばれた。同法公布の翌年には工事に着手し、総建坪8,720坪(約28,800平方メートル)、山陰線からの引込み線とプラットホームを備え、各種卸売場・仲買店舗・立売場・倉庫・冷蔵庫・自動車庫・生け簀・醗酵室などの設備を有する中央卸売市場が27(昭和2)年に竣工、12月から事業を開始した。この市場は市の直営ではなく、設備を卸売人・仲買人が使用し、市が監督する仕組みで運営された。
1969(昭和44)年には食肉類を専門に取り扱う卸売市場を全国で9番目の市場として開場し、従来の市場を京都市中央卸売市場第一市場に、食肉卸売市場を京都市中央卸売市場第二市場と呼称した。
総敷地面積約14.7ヘクタールを有する第一市場では、取扱量の回復、施設の老朽化・耐震化への対応、京都駅西部エリアの活性化を目的に、2015(平成27)年3月策定した「京都市中央市場施設整備基本計画」を基に施設整備が進められ、21年9月には、切れ目のない温度管理を実現するコールドチェーンを確立した “新水産棟Ⅰ期エリア”(水産部門)がオープンした。
山陰本線の東側には、かつて花街として賑わった『島原』が佇む。島原は、豊臣秀吉により公許され、後に六条坊門(現在の東本願寺北側)に移され栄えた六条三筋町が、 1641(寛永18)年官命により現在の朱雀野に移されてきたことに始まる。正式名称は西新屋町と呼んだが、急な移転騒動が九州「島原の乱」の直後であったため、それになぞらえて島原と称されるようになったという。13,459坪(約4.4ヘクタール)の敷地は堀と塀で囲まれ、街の入口は東北部に1カ所のみで、ここに大門と番所があった。
この街の中ほどを東西に延びる花屋町通には島原大門が建っている。門は、当初東辺北寄りに設けられたが、1766(明和3)年に現在地に付け替えられ、1867(慶応3)年に現在の門が建てられた。この門は控柱の上にも屋根をのせる高麗門形式で、京都市登録文化財になっている。
島原には、揚屋として重要文化財に指定された「角屋(すみや)」や、元禄年間(1688-1704)創建の置屋で1857(安政4)年に再建された輪違屋(わちがいや)(京都市指定文化財)が残っている。また花屋町通では、元々の揚屋を引き継ぎ、昭和初期に旅館として開業した「きんせ旅館」がかつての花街の風情を色濃く残し、島原の伝統を現代に継承している。
山陰本線を挟んで西と東はまったく異なる街の造りとなっているが、深みのある都市の様相を呈している。
参考文献「京都市政史 第1巻 市政の形成」京都市市政史編さん委員会編、京都市 2009年 「京都市中央卸売市場三十年史」京都市 1957年 「国指定文化財等データベース」(角屋)文化庁 「京都市情報館」(中央卸売市場第一市場) 「京都市中央市場」(市場について) 「京都市情報館」(島原大門、輪違屋) 「京都を彩る建物や庭園」(きんせ旅館)