元・某有名和菓子店スタッフが、5店舗の水無月を食べくらべしてみた!

お菓子を食べる日

6月の京都には水無月(みなづき)という和菓子がいたるところに並びます。老舗の和菓子屋さんやデパ地下はもちろん、近所のスーパーにも。普段、水無月をおいていないお店も勇んで水無月を売り出すのです。なぜかというと、京都では6月30日が水無月を食べる日だから!

正確にいうとその日には夏越の大祓(なごしのおおはらえ)という神事があり、茅の輪くぐりをしたり、人形(ひとがた)を使ったりして年明けから6月末までにたまった半期分の厄を払うのですが、お手軽に家で水無月を食べることも1つの厄払いの方法なのです。

「6月30日が近づくとなんだか水無月が食べたくなる」という雰囲気は12月24・25日に、日本で多くの人がクリスマスケーキを食べる感覚に近いような気がします。商品を見る機会も増えるし、貼り紙やPOPもよく見るし、食べるまでちょっとそわそわとして、食べるとほっこりと気持ちが満たされて充実するのです。もちろん当日以外に食べてもOKですよ!

わたしは学生時代とある水無月の専門店で3年半アルバイトをしていて、毎年「6月は決戦!」という勢いで水無月を販売していました。お店に来るお客様も増えますが、デパートなどの催事も増えて大忙しです。30日(当日)はメインイベント!大勢のお客様に整列してもらいながらテキパキと売りました。売り場も工場も毎日忙しいのですが、とても活気があって疲れるけどお祭りのようで楽しいものでした。6月29日の夜は徹夜で工場を稼働させて、蒸し器の煙が一晩中立ちのぼって、京都の街へと水無月を送り出すために頑張りました。

 

水無月とは?

水無月は三角形のお菓子で、白い外郎(ういろう)に小豆をのせたものが定番です。ちなみに小豆の乗ったものが「水無月」で、そうでないものは「外郎」と呼ばれることが多いです。基本的には小豆が乗っているかいないかだけで、ベースは同じものです。白が氷室(ひむろ)の氷の色、小豆の赤が魔除けの色を表す伝統的な組み合わせで、三角形は氷の形だといわれています。他にも、黒砂糖を練りこんだ「黒水無月」、豪華に栗をのせた「栗水無月」、抹茶を練りこんだ「抹茶水無月」など種類もたくさん。勤めていたお店ではメインの材料は米粉・小麦粉・砂糖でしたが、材料の配合は和菓子屋さんによって異なります。葛・寒天・もち米を入れるところもあり、様々なバリエーションがあります。
それでは6月の京都に並び始めた水無月を、数あるお店の中から5店舗巡って食べてみましょう。

 

1.鶴屋吉信

鶴屋吉信さんは江戸時代、初代・鶴屋伊兵衛氏によって1803年(享和3年)に創業した老舗の和菓子屋さんで、堀川今出川に本店を構えています。
『代々受け継がれている家訓に「ヨキモノヲツクル為ニ材料、手間ヒマヲ惜シマヌ事」という一条があります。おいしい京菓子を創るための哲学であり、最高の原料と最高の風味、格調高い意匠を大切に、お客様に喜ばれるお菓子創りに専念してきました。』(※1)
老舗の和菓子屋さんの水無月、楽しみですね。早速いただきます!

本店で購入した水無月は、すずしげな氷柄の掛紙で包装。
(この掛紙は希望すれば包んでもらえますがタイミングによっては無いこともあるそうです、ご注意ください。※2022年6月時の情報です。)
鶴屋吉信の「水無月」

『白い外郎(ういろう)に、艶々と光るきれいな小豆がびっしりと敷き詰められています。これは丹波大納言小豆の中でも特に希少で風味豊かな京都亀岡・馬路産「馬路大納言小豆」です。』(※2)お味は、外郎の弾力がしっかりしておりコシを感じます。もっちもちの食感。あっさり風味の外郎と、小豆の甘さがとても良い組み合わせで舌を楽しませてくれます。小豆が硬めで豆の存在を強く感じるので、豆好きの方に食べてほしいお味です。

鶴屋吉信の「御所氷室」
鶴屋吉信の「御所氷室」

鶴屋吉信さんには、「御所氷室(ごしょひむろ)」という氷を模したお菓子もあります。氷室の氷をイメージしているのは水無月と同じですね。つめたい氷をパキッと割ったような白くて美しい見た目のお干菓子で、噛むとシャリっと気持ちの良い食感。中はしっとりとしていて上品な甘さです。ほんのりと梅酒が効いて爽やか、夏にぴったりです。

2.五建ういろ

『1855年(安政2年) 初代谷川重蔵が京都五条の建仁寺や六波羅蜜寺や清水寺詣のお客のために茶屋を構えたのが創業の始まり』 (※3) 
五建ういろさんは江戸時代の安政年間から続くお店で、店名の「ういろ」は「外郎」のことで、つまり水無月の専門店です。本店が大和大路五条で、清水寺や大谷本廟へ向かう人が多く通る場所です。食べやすくブロック状に切った「生ういろ」と「真空ういろ」という商品を通年で売られています。もちろん六月には三角形に切った「水無月」を出されます。

五建ういろの「水無月」白・黒

今回はジェイアール京都伊勢丹さんで、白の水無月と黒の水無月を買いました。まず、白からいただきます。外郎も豆もすっきりとした甘さ、しっとりとした食感で柔らかめです。豆の風味も食欲をそそり、さらっと何個でも食べてしまえそうです。
黒水無月は、黒砂糖の風味がビターなのにしっかりとした甘さを感じられる大人の味で、黒砂糖が好きな方にはぜひ食べてみてもらいたい逸品です。さすが、外郎の専門店という美味しさでした。

五建ういろの「生ういろ」(栗)と茶団子

せっかくなので他の商品もいただきました。「生ういろ」の栗は、小豆が入っているので栗水無月ともいえます。ブロック状で表面にフィルムが巻いてあるので食べやすさも。黄色の見た目がカワイイのと、栗の食感が楽しくてさくさく食べてしまえます。串に3つ差してある茶団子はほんのり苦みがあって美味しい!

 

3.仙太郎

仙太郎さんは創業1886年(明治19年)から続く和菓子屋さんで、本店は四条寺町を下がったあたりにあります。百貨店のデパ地下に多く出店されていて、いつも行列ができているほどの人気店。自社農園をお持ちで、素材にこだわられています。
それでは、京都髙島屋さんで購入した「みなづき 白」と「みなづき 抹茶」をいただきます。

仙太郎の「みなづき 白」と「みなづき 抹茶」

白の外郎はちょうど良いもっちり感でしっかりとした甘さがあります。小豆がとても良い香りで、豆そのものの美味しさを感じます。抹茶の外郎は白よりあっさりめで締まったお味。若干の苦みと抹茶の風味がとても美味しいです。甘さはひかえめ。
包装紙に書かれた「身土不二」は、体をやさしく養ってくれる食べ物のみが本当の意味で美味しいといえるという、仙太郎さんの理念が込められています。

 

4.出町ふたば

出町ふたばさんは赤えんどうを使った「名代 豆餅」で広く知られる有名店。創業1899年(明治32年)で出町柳駅や出町桝形商店街の近くにある和菓子屋さんです。いつもお店の前には途切れることのない何重もの行列がもはや日常風景。今回は豆餅でなく水無月をいただきます。たくさんの種類がありましたので、3種類を選びました。

出町ふたばの「みな月」白・抹茶・白小豆

まず、定番の白の水無月をいただきます。外郎はつるつる滑らかな口当たりで、弾力は控えめ。しっとりしていてすっきりとした甘さです。甘さひかえめで飽きがきません。次は、抹茶の外郎にうぐいす豆がのった緑色の水無月。抹茶のビター感とうぐいす豆の甘さとのバランスに大人の味を感じました。豆の風味にほのかな塩気を感じさせるあたり、名代 豆餅の美味しさを彷彿とさせるお味でした。最後は珍しい、白の外郎に白小豆がのった真っ白の水無月です。すっきりと優しい甘さで後味もすっとしています。見た目も氷のようで素敵ですね。

 

5.七條甘春堂

七條甘春堂さんは慶応元年(1865年)から続く和菓子屋さんで三十三間堂前に本店を構えておられます。色鮮やかで幻想的な美しさの羊羹などがSNSでも人気のお店。今回は本店で購入した水無月をいただきます。

七條甘春堂の「水無月」白・黒

まずは白から。ねっとり絡みつくような食感で、かための水無月です。重厚感があり、しっかりとした食べごたえです。お抹茶などと一緒に一口ずつゆっくり味わいたい美味しさ。原材料表示を見ると、もち米と寒天が入っているので、ねっとり感はここから来ているのでしょう。つづいて黒を食します。黒の外郎に白小豆がのっているのは珍しい色合わせですね。甘さは白より増して、小豆はほくほくとした食感。コーヒーなどを片手に頂きたいお味でした。


 

まとめ

5店の水無月を数日に分けて食べましたが、それぞれ想像以上の個性を楽しめました。たくさん食べたので体重は心配ですが、たくさん厄払いもできましたので年末まで幸せに過ごせそうです!体重が戻ったころにまた京都のおいしいものを食べくらべてみたいと思います。梅雨のじめじめを、美味しい水無月で吹き飛ばしましょう!

(編集部/やまださん)

【京都観光Naviぷらす】なぜ京都人は6月に「水無月」を食べるのか? 老舗・俵屋吉富に聞く、その風習と変遷



出典
※1 ※2 鶴屋吉信ホームページより 
※3 五建ういろ ホームページより
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この記事を書いたライター

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