大手筋商店街との出会い
京都市内に住んでいるわたしは、ある日何のことはない用事で伏見の方へ立ち寄った。すぐ帰るつもりであったがふと気になるものが目に入った。
「サンタが異常発生するで大手筋 何でもあるで大手筋」
??????!
意味のわからない垂れ幕があった。この時は10月だったので辺りにサンタはいなかったが、12月になると異常発生するのか・・・と思わず気を引き締める。吸い込まれるように歩いていくと垂れ幕が増えた。
「家具もバッグもあるで大手筋 何でもあるで大手筋」
!!!!
家具もバッグも全く違うジャンルのものであるが、どちらも揃っているというPRらしい。そして、末尾には「何でもあるで大手筋」という鉄板のフレーズだ。どうやらこれを付けなくてはいけないという決まりがあるのだろう。もしかして垂れ幕は、他にもあるかもしれない。わたしは唾をのんで、ひと呼吸しアーケードの天井を見渡した。
「楽しい空間もあるで大手筋 何でもあるで大手筋」
「旨い酒もあるで大手筋 何でもあるで大手筋」
「だいたいの銀行あるで大手筋 何でもあるで大手筋」
そこには想像を絶する押しの強い垂れ幕が、ずっと遠くまで、数えきれないほど広がっていた。言い切り形だけでなく、【だいたいの】と婉曲表現をするものが出てきたことによって、この垂れ幕は嘘をついていないという信頼感まで芽生えてくる。
「その道のプロが居てるで大手筋 なんでもあるで大手筋」
「新機種よりどりみどりやで大手筋 なんでもあるで大手筋」
「こだわりのええもんあるで大手筋 なんでもあるで大手筋」
どうやらここは「大手筋商店街」というところで、長さ400mで道幅は8m~10mという、すごい規模のアーケードがある商店街だった。わたしはすっかり夢中になってしまった。
サンタ大量発生の謎に迫る
サンタの謎が気になって仕方ないので「伏見大手筋商店街振興組合」様に取材を申し込んだ。取材依頼書に「本当にサンタが異常発生しているのか知りたいです」と記入する際は、大人として間違っていない質問なのかとても逡巡したのだが、勇気を出して良かったと冷や汗をかきながら思っている。以下はインタビューの様子である。
『なぜ、「なんでもあるで大手筋 サンタが異常発生するで大手筋」という面白い垂れ幕を作ったのでしょうか?』
伏見大手筋商店街振興組合の皆様(以下、大手筋)『装飾は年に4回変えるのですが、シーズン用だけでなくて通年置けるものを作ろう、なんかおもろいもんないかな~?と考えて作りました。商店街のどの店舗にも1個は関わる内容になるように試行錯誤しました。』
『商店街に113軒あるお店の、全てに関わる内容というのはすごいですね。 あの、12月は本当にサンタが出るのでしょうか・・・?』
大手筋『もちろんサンタ出ます!異常発生します。150体くらい・・・?』
『え~!?しかも150体ですか???』
大手筋『はじめサンタは30体くらいで、ちょっと化粧させたりサングラスかけさせたりして、小さいお子さんに楽しんでもらおうとしたんですね。「変装してるのを見つけたら飴ちゃんあげるよ~♪」みたいな。でも1回謎解きクイズをやったら大人もハマって反応がよかったんです。それでだんだん難易度が上がっていって(笑)大人向けと子供向けとかに問題を分けたりしています。』
『謎解きイベントまで?!!チラシから本気度が伝わってきますね。』
大手筋『この時期になると近所のご家族や、おじいちゃんおばあちゃんとお孫さんが商店街の上を見上げながら、写真撮って帰らはります。大人も子どもも楽しめますし、たくさんの人に来てほしいですね。毎年、12月頭にサンタが挑戦状を置いていくんですよ!だから12月初旬からクリスマスまでくらいの間に開催予定です。去年は超難問やったから、今年も楽しみですね。』
『大手筋商店街さんはすごく活気があると感じるのですが、なんでですか?』
大手筋『うちは古い店も大手の店もあってバランスがいいので、近所の人が使い勝手良いのではないでしょうか。この界隈は酒蔵もあるし、区役所もある。雨の日でも駅から濡れずに通れるから通勤通学の人通りもある、あとはこの地に徳川家康が「銀座」を置いていたという歴史的な経緯もあって銀行さんが多いです、都銀が3つあるのはすごいことかな。新しいお店も古いお店も個人のお店もあってバラバラなんですよね、商店街として行事ごとなどの取り組みをするのもだんだん難しくなってきています。そんなときにあの広告(冒頭の「サンタが異常発生するで大手筋 何でもあるで大手筋」の垂れ幕)なら全店に平等に効果があるのかと考えました。』
『あの垂れ幕にそんな想いが隠されてたんですね、感動して涙が出てきました…。クリスマス以外はどんな行事をされているんですか?』
大手筋『行事は地元のお客さんになんかおもろいなと思ってもらいたいと考えてやっています。コロナ前は、毎年夏に7つの商店街で合同の「夏の夜市」を同じ日に開催していました。何十年も続いているイベントで、大手筋商店街は伝統的にゲームをやっています。縁日の遊びの大型版!をお子様向けで。収益だけでなく、近所のご家族に楽しんで帰ってもらうのが目的です。
秋は近くの御香宮さんが1週間くらいかけてお祭りをやらはるんですが、花傘パレードがそのメインの1つです。これに商店街がコラボさせてもらって、多くのお客さんが集まって見てもらえる場として活用しています。売り上げを上げるためのものではなく、地域の人に商店街にきて楽しんでもらうためのイベントです。そういうものは続いていくんです。今年は7月29日(金)に地元の商店街と合同で開催予定、感染対策のため、皆さんの通行を確保できるくらいに混雑を減らせるようやり方を変えるつもりです。竜馬商店街や納屋町商店街は食べ歩きがメインなので、他の商店街も回ると大人も子供も楽しめます。』
『そもそも、大手筋商店街はいつごろできたんですか?』
大手筋『1923年(大正12年)大手筋繁栄会というのがお金を出し合って、一体感を出すために街路灯の「すずらん灯」を建てたのがスタートです。実は来年2023年で100年目!・・・こないだ気づいたんですけど(笑)「何年でしたか?」と言われて確認したら99年目でした、過ぎてなくてよかったです。まだ商店街の皆は気づいてないので今から広めます!!』
『無事に100年目をお祝いできそうでよかったです。最後に、観光客や地元以外の方へメッセージをお願いします。』
大手筋『特別すごいもんはないんですけど、古いとこも新しいとこもあり、どなたでも気軽に立ち寄ってもらいたいです。寺田屋や会津藩駐屯地跡、長州藩邸などの歴史スポットもあちこちにありますし、御香宮さんも豊臣と徳川両方の遺構が残っていて、それぞれが共存してたり。明治天皇陵もご縁が深いです。最寄り駅が「桃山御陵前」といいますが、明治天皇陵があるからなんですね。参拝のために人通りが増えたことが、この街の発展の一つのきっかけにもなっています。
いまは近隣にすごい数の飲食店が増えてきて、地元民でも把握しきれません(笑)昼は散歩して、夜はご飯食べて帰ってね。まあ、朝から来るほどの場所ではないかな~(大笑)』
2022年のクリスマス
待ちに待った12月!サンタが異常発生する伏見大手筋商店街を自分の目で見るべく、私はカメラを構えて突撃取材した。
平日の夕方だが、商店街はとても賑わっている。サンタはどこかな?と探すまでもなく、左にも右にもサンタさんがたくさん発見された!
謎解きのヒントを持って微笑むサンタさんや、皆でサッカーを楽しむサンタさん、煙突?みたいなところから現れるサンタさん。よりどりみどりである。サンタさんは商店街の壁や看板を縦横無尽によじのぼっており、世界中の子どもにプレゼントを配るならこれだけの数でチームを組んで仕事をしていて当然なのかも?という気持ちになった。
ぜひ商店街で謎解きをしながら、異なるポーズをしたサンタさんをすみずみまで楽しんでもらいたい。
あとがき
以上のインタビューを経て、伏見大手筋商店街さんは面白い広告を掲げているだけではなく、地元の方を楽しませるために様々なイベントをしている魅力的な商店街だということが分かった。冗談のような広告は、商店街の大小すべてのお店を平等に宣伝するための手段のひとつ。人通りの絶えない賑やかな商店街からは、地元の方々から愛され続けているということが伝わってくる。
取材のきっかけをくれて有難うサンタさん、大手筋商店街さんの話をきくことができて本当によかった。
(編集部/やまださん)