文章はリズム♪ / 文章の質は推敲の数に比例する② ~書くのがラクになる文章のトリセツvol.7~

読みやすい文章とは、リズムのよい文章

前章vol.6で、推敲のチェックポイントを3つ挙げ「伝えたいことが過不足なく書かれているか?」「論理的な文章になっているか?」について述べました。本章では3つめの「理解と納得を妨げない、読みやすい文になっているか?」について詳しく解説します。


▶文章の質は推敲の数に比例する ~書くのがラクになる文章のトリセツVol.6~

Vol.1『文章は見た目が9割』では、ひらがなと漢字の割合、行間隔や文字間隔など「見た目の大切さ」を説きました。でも、読みやすさの条件は他にもあり、見た目と並んで私が重視しているのが「リズム」です。音楽やスポーツはもちろん「生活リズム」という言葉があるように、リズムは多くの場面で大切な要素となります。文章ももちろんで、読みやすい文章にはリズムがあります。俳句や短歌が「五・七・五」で区切られているのは、まさしくこのリズムです。では、どうすればリズミカルな文章、すなわち読みやすい文章になるのか?私の場合は「リズムを乱すものを排除する」ことを心がけています。


▶文章は見た目が9割! ~書くのがラクになる文章のトリセツ Vol.1~
和歌は「五 七 五 七 七」のリズム
文字のない時代は言葉に「節」すなわちリズムをつけることで、覚えやすくしていた。これが歌の起源ともいわれている。

リズムを乱すものの筆頭格が、誤字脱字や文法的におかしい文などの「間違い」です。これらは読んでいて「ん?」という違和感を抱いてしまいます。違和感はリズムを乱して、読み手を「つまずかせて」しまうのです。一度や二度のつまずきなら、読み手もすぐに立ち上がってくれますが、これが続くと立ち直るのに大きな力を要し、最悪は読むのを止めてしまいます。少なくとも読み手の集中力が途切れて、理解度をグーンと下げてしまうのは避けられません。逆にいうと、読みやすい文章とは「スラスラと読めて、高い理解度を維持できる文章」だと思います。このスラスラを阻害する大きな要因が「間違い」というわけです。

推敲とは、間違い探しクイズ

では、リズムを乱す要因である「間違い」は、どのように防げばよいでしょうか?もちろん、書くときに気をつけることが第一ですが、そのことにあまり気をとられると、集中力が散漫になります。vol.6で「ココロで書く」と述べたように、書くときは細かいことを気にせずに、思いのまま一気に書き進めることを推奨します。だからこそ、書いた後のチェックが重要となるわけです。この「書いた後チェック」では100点を目指してください。「間違い探しクイズ」のように、最初から疑いの目をもって見ることが肝要です。

ここからは、間違いを見落とさないために私が実践している5つの方法をご紹介します。5つに共通するポイントは「客観的な視点」にあります。ようするに「いかにして自分の文章を他人の目で見るか?」ということです。なぜ、客観性が大切なのか?自分の書いた文章だと、内容がすでにアタマの中に入っていて、注意して見ているつもりでも、「先が読めて」しまうからです。すると、いつの間にか流し読みをしていて、間違いを見落としがちになります。とはいえ、実際問題として他人の目にはなれません。自分は自分です。また「客観的な視点が大事だ!」と意識することで客観的になれるなら苦労はしません。だからこそ、物理的具体的な方法で、できるだけ「他人の目」になることが大切なんです。それでは順にみていきましょう。

① ディスプレイではなく、紙の状態で見る
② 縦書きの場合は横書きに、横書きの場合は縦書きに変換してみる

この2つは、文章を新鮮な気持ちで読むために、書いたときと違う状況にする方法です。特に紙に出力すると、全体を見渡しやすくなるので、文章の構造やつながりのチェックに有効といえます。

③ ひと晩寝かすなど、書いてからの時間をあける

時間をあけると「書いたときの記憶」が薄れるので、流し読みが防げます。また、書いた直後は心がホットなので、冷静な状態に戻す時間が必要です。最低ひと晩、できれば数日あけると、かなり他人の目になれます。

④ 音読してみる

黙読と違って、声に出すとスラスラ読めない箇所が明確になります。つまりリズムの良し悪しを見極めるのに有効な手段といえます。また、音読につまずく部分は「実はその内容自体を、自分でもよく理解できていない」ことに気づくケースがけっこうあります。

⑤ 他の人に読んでもらう

いちばん最強なのがこれです。そもそも文章とは他の人に読んでもらうためのものですから、自分以外の人に読んでもらうのが一番。まさに他人の目です。私は「ここ一番」というときには、異なるキャラの2人に読んでもらうようにしています。一人は、文章のテーマにあまり詳しくない人です。内容に対する予備知識が少ないので、わかりやすいかどうかの判定をしてくれます。誰にでもわかりよい文章を目指すときに有効な方法です。もう一人は「国語力に長けた人」で、自分でも気づかない細かなミスを指摘してもらうことが目的となります。

これらをすべて実践できればベストでしょうが、せめて1と3、少なくとも1は実行するようにしてください。

読みやすい文章とは、文法的に正しい文章

さて、ここまでは誤字脱字の間違いについて述べてきましたが、もうひとつ「文法的に正しいか?」もリズムに関わる重要なチェックポイントです。「話が通じるなら、文法なんてどうでもいいやん」という声も聞こえそうですが、「読みやすい文章とは結局、文法的に正しい文」だと私は考えています。文法とは「誰でも理解できるためのルール」だからです。例として「主語と述語のねじれ」を挙げてみます。次の文を読んでください。

私の趣味は音楽を聴きます。

ん?なんかヘンですよね。そうです、主語と述語が一致していないからです。「私の趣味は音楽を聴くことです。」にすれば、しっくりきますよね。「いや、こんな間違いせーへんやろ」とお思いでしょう。でも、これが長い文章になると、案外とやらかしてしまうものなんです。

たとえばこんな感じです。

後ろの文を主語と述語だけにすると「私の趣味は歌います」となり、明らかヘンです。

そこで、こう直してみました。

修正ポイントは2つ。1つは文章を分けたこと。2つめは主語と述語を近づけたこと。長い文や、主語と述語の間にゴチャゴチャと入った文は、全体が見渡せず主語と述語の関係が見えづらくなるからです。


他にも「主語の省略」「述語の省略」「修飾語と被修飾語のねじれ」など、たくさんありますが、それを書き出すと本格的な「国語の時間」になってしまい、サイト離脱される方が続出するのでやめときます。とにかく、ポイントは「一文を短くすること」「主語と述語は近くに置くこと」だと考えてください。

敬語の間違いも、つまずきポイント

次に、文法と並んで読み手に「ん?」を与えてしまうのが「敬語の間違い」です。いくつかの例を挙げてみます。

【誤】おっしゃられる
二重敬語になっています。

【正】おっしゃる


【誤】拝見される
謙譲語の「拝見」と、尊敬語の「~される」が混在しています。

【正】拝見する or ご覧になる


【誤】花に水をあげる
人ではなく物に対して「あげる」は不自然です。※擬人化する意図がある場合は別。

【正】花に水をやる


文法の間違いも敬語の誤用も共通しているのは「会話なら気にならない」ということです。文章は目に見えるので、間違いに気づきやすいからでしょう。さらに最大の問題は「文法や敬語の間違いは、自分で気づくことが困難」だということです。前述した「国語力に長けた人に読んでもらう」ことの有効性はここにもあります。

テクニック編

ここまで、正しいかどうか?にこだわってきましたが、ここで少しだけテクニック的な話もしてみようと思います。「間違っているわけではないけれど、なんとなく読みづらい文章」や「なんだか稚拙な文章だな」って思うこと、ありますよね。そんな文章もちょっとしたテクニックで、ワンランク上の文章に見せることができます。いくつかのテクを並べていきますね。

■語尾に注目

「~です。」「~ました。」など、文の終わり方には一定のパターンがあります。ここで注意したいのが、同じ語尾が何度も続くと、単調な文章となり読み手は飽きやすくなってしまいます。あるいは、幼稚なイメージを与えしまう危険もあります。小学生の作文で「昨日、海に行きました。海で泳ぎました。かき氷を食べました。お父さんの車で帰りました。」なんて文章、見たことがあるかと思います。でも、意外と私たちも「~です。~です。~です。」の連打をやっちゃってます。これは、推敲時に「語尾だけを追いかける」という目線で見ていけば、カンタンに修正できます。ちなみに、私は「同じ語尾が続くのは2回まで。3回目はアウト」を基準にしています。あと、単調な語尾にアクセントをつけるテクニックとして「体言止め」が有効です。

■「の、の、の」はアウト

「京都の中学校の生徒の数の比較をする」

はい、この文では「の」が4回も続きましたよね。なんとなく読むほうぎこちなくなってきます。つまりリズムがよくありません。私の場合は「『の』の連打は2回まで」とルールを決めています。そこで、こう直してみました。

「京都の中学校の生徒数を比較する」

いかがでしょう?
だいぶスッキリしたと思いませんか?

■平がなが続きすぎる 

Vol.1では「文字数に対する漢字の割合を30%以下に抑える」と書きました。漢字が多いとゴツゴツして、「読みにくそう」なイメージを与えるからです。でも、だからといって平がなが続きすぎると、かえって読みづらくなります。

ここで、少しだけマニアックな話におつきあいください。「昭和世代のゲームあるある」で、ドラクエⅡの「復活の呪文」は、多くのエピソードを残してくれました。復活の呪文とは、ゲームの記録を残すためのパスワードです。これがなんと平がなばかりが50文字くらい続くのです。しかも「ないよしはあよまにしまにきなしくしのりはふはしまよあゆまきへしみこのしまはとらまとしはよよはまよぬめ」みたいに、まったく意味のない文字がひたすら続くのです。ゲームを再開するときに、このパスワードを入力するのですが、たとえ1文字でも間違えると一巻の終わりです。数時間、ときには徹夜も辞さず苦労して苦労して進んだシナリオがパー。すごろくの振り出しみたいに元の位置からリ・スタートとなるのです。

なぜ、間違いがおきるかといえば「ひたすら平がなが続くから」です。漢字って難しそうに見えて、実は文章を読みやすくするためのアクセントになってくれていたんですね。はい、ドラクエをご存じない方にとっては「なんのこっちゃ?」の話となってスミマセン。話を戻しますね。ようするに「平がなが続きすぎると読みづらいので、適度に漢字またはカタカナを入れましょう」ってことです。

漢字がほどよく入ると読みやすくなる

■2通りの解釈が成りたつ文は不親切

「このはし渡るべからず」

一休さんが「はし」を「橋」ではなく「端」と解釈することで、堂々と橋の真ん中を歩いた話は誰もが知っていますよね。この話のミソは、2通りの解釈が成立することにありました。物語としては痛快ですが、私たちがこのような文を書くと余計な誤解を招きますし、なにより読み手を惑わせるのは不親切だといえます。もうひとつ例をあげましょう。

美しい嵐山の渡月橋。

美しいのは、嵐山なのか渡月橋なのか?こちらも2通りの解釈が成り立ちます。こうなると読み手は「ん?」となって読み返す人もいるでしょう。つまり相手の時間を奪っていることになり、不親切な文章だといえます。

嵐山が美しいのであれば「美しい嵐山に横たわる渡月橋」、渡月橋が美しいのであれば「嵐山の美しい渡月橋」とすれば、しっかりと伝わります。

推敲は1回では終わらない

ひと口に推敲といっても、いろんなチェックポイントがあることを、お分かりいただけたかと思います。慣れないうちは「論理のチェックで1回、誤字脱字のチェックで1回、語尾のチェックで1回…」というように、ポイントを1つずつ絞ってチェックすることをオススメします。

「え~、そんなに何回もチェックするの?」

と思われた方も多いことでしょう。タイパ(タイムパフォーマンス)が叫ばれる時代に逆行したことを言っているかもしれません。でも、本当のタイパとは「短い時間で効率よく書く」ことではなく「効率よく確実に伝える」ことです。だって、伝わらなかったら、書くのに要した時間すべてがムダに終わるわけですから。

私は記事をアップするときは平均で10回くらい推敲しています。それでも時々やらかしていますが…。みなさんも騙されたと思って、一度10回くらい推敲してみてください。初回の文章と10回推敲した後の文を見比べてみると「別人の文章か?」と思うくらいに洗練されて読みやすい文章になったことに気づくはずです。

そして、もうひとつ。

推敲には「おもてなしの心の反映」ともいえる深い意味が含まれていると私は考えています。読みやすい文章にすることは、読み手への礼儀だといえます。大切なことを伝えたい相手は「大切な人」のはずです。だからこそ、相手への礼儀と思いやりが欠かせません。「この文章で、○○さんにわかってもらえるかな?」という想いを馳せること。この「おもてなしの文章」に託されたあなたの心は、きっと相手の心に伝わることでしょう。  

よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ