読みやすい文章とは、リズムのよい文章

前章vol.6で、推敲のチェックポイントを3つ挙げ「伝えたいことが過不足なく書かれているか?」「論理的な文章になっているか?」について述べました。本章では3つめの「理解と納得を妨げない、読みやすい文になっているか?」について詳しく解説します。

Vol.1『文章は見た目が9割』では、ひらがなと漢字の割合、行間隔や文字間隔など「見た目の大切さ」を説きました。でも、読みやすさの条件は他にもあり、見た目と並んで私が重視しているのが「リズム」です。音楽やスポーツはもちろん「生活リズム」という言葉があるように、リズムは多くの場面で大切な要素となります。文章ももちろんで、読みやすい文章にはリズムがあります。俳句や短歌が「五・七・五」で区切られているのは、まさしくこのリズムです。では、どうすればリズミカルな文章、すなわち読みやすい文章になるのか?私の場合は「リズムを乱すものを排除する」ことを心がけています。

和歌は「五 七 五 七 七」のリズム

和歌は「五 七 五 七 七」のリズム

文字のない時代は言葉に「節」すなわちリズムをつけることで、覚えやすくしていた。これが歌の起源ともいわれている。

リズムを乱すものの筆頭格が、誤字脱字や文法的におかしい文などの「間違い」です。これらは読んでいて「ん?」という違和感を抱いてしまいます。違和感はリズムを乱して、読み手を「つまずかせて」しまうのです。一度や二度のつまずきなら、読み手もすぐに立ち上がってくれますが、これが続くと立ち直るのに大きな力を要し、最悪は読むのを止めてしまいます。少なくとも読み手の集中力が途切れて、理解度をグーンと下げてしまうのは避けられません。逆にいうと、読みやすい文章とは「スラスラと読めて、高い理解度を維持できる文章」だと思います。このスラスラを阻害する大きな要因が「間違い」というわけです。

推敲とは、間違い探しクイズ

では、リズムを乱す要因である「間違い」は、どのように防げばよいでしょうか?もちろん、書くときに気をつけることが第一ですが、そのことにあまり気をとられると、集中力が散漫になります。vol.6で「ココロで書く」と述べたように、書くときは細かいことを気にせずに、思いのまま一気に書き進めることを推奨します。だからこそ、書いた後のチェックが重要となるわけです。この「書いた後チェック」では100点を目指してください。「間違い探しクイズ」のように、最初から疑いの目をもって見ることが肝要です。

ここからは、間違いを見落とさないために私が実践している5つの方法をご紹介します。5つに共通するポイントは「客観的な視点」にあります。ようするに「いかにして自分の文章を他人の目で見るか?」ということです。なぜ、客観性が大切なのか?自分の書いた文章だと、内容がすでにアタマの中に入っていて、注意して見ているつもりでも、「先が読めて」しまうからです。すると、いつの間にか流し読みをしていて、間違いを見落としがちになります。とはいえ、実際問題として他人の目にはなれません。自分は自分です。また「客観的な視点が大事だ!」と意識することで客観的になれるなら苦労はしません。だからこそ、物理的具体的な方法で、できるだけ「他人の目」になることが大切なんです。それでは順にみていきましょう。

① ディスプレイではなく、紙の状態で見る
② 縦書きの場合は横書きに、横書きの場合は縦書きに変換してみる

この2つは、文章を新鮮な気持ちで読むために、書いたときと違う状況にする方法です。特に紙に出力すると、全体を見渡しやすくなるので、文章の構造やつながりのチェックに有効といえます。

③ ひと晩寝かすなど、書いてからの時間をあける

時間をあけると「書いたときの記憶」が薄れるので、流し読みが防げます。また、書いた直後は心がホットなので、冷静な状態に戻す時間が必要です。最低ひと晩、できれば数日あけると、かなり他人の目になれます。

④ 音読してみる

黙読と違って、声に出すとスラスラ読めない箇所が明確になります。つまりリズムの良し悪しを見極めるのに有効な手段といえます。また、音読につまずく部分は「実はその内容自体を、自分でもよく理解できていない」ことに気づくケースがけっこうあります。

⑤ 他の人に読んでもらう

いちばん最強なのがこれです。そもそも文章とは他の人に読んでもらうためのものですから、自分以外の人に読んでもらうのが一番。まさに他人の目です。私は「ここ一番」というときには、異なるキャラの2人に読んでもらうようにしています。一人は、文章のテーマにあまり詳しくない人です。内容に対する予備知識が少ないので、わかりやすいかどうかの判定をしてくれます。誰にでもわかりよい文章を目指すときに有効な方法です。もう一人は「国語力に長けた人」で、自分でも気づかない細かなミスを指摘してもらうことが目的となります。

これらをすべて実践できればベストでしょうが、せめて1と3、少なくとも1は実行するようにしてください。

読みやすい文章とは、文法的に正しい文章

さて、ここまでは誤字脱字の間違いについて述べてきましたが、もうひとつ「文法的に正しいか?」もリズムに関わる重要なチェックポイントです。「話が通じるなら、文法なんてどうでもいいやん」という声も聞こえそうですが、「読みやすい文章とは結局、文法的に正しい文」だと私は考えています。文法とは「誰でも理解できるためのルール」だからです。例として「主語と述語のねじれ」を挙げてみます。次の文を読んでください。

私の趣味は音楽を聴きます。

ん?なんかヘンですよね。そうです、主語と述語が一致していないからです。「私の趣味は音楽を聴くことです。」にすれば、しっくりきますよね。「いや、こんな間違いせーへんやろ」とお思いでしょう。でも、これが長い文章になると、案外とやらかしてしまうものなんです。

たとえばこんな感じです。

後ろの文を主語と述語だけにすると「私の趣味は歌います」となり、明らかヘンです。

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この記事を書いたKLKライター

八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員
吉川 哲史

祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。

日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。

地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。

得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。

著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」

サンケイデザイン㈱専務取締役

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自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
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「西陣がわかれば日本がわかる」
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