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緊急案件は終わった後が肝心
やるべきことを重要度と緊急度の基準ではかり、優先順位をつける。これが「重要×緊急マトリクス」の要点でした。なかでも私たちの心から余裕を奪ってしまうのが「緊急」案件です。それゆえに、その緊急案件が片づくとホッとしますよね。でも、ここで安心してはいけません。「緊急案件への対応は、終わった後が肝心」なんです。具体的に説明しましょう。
たとえば、風邪をひいたときは「薬を飲む」「医者に行く」などが、重要×緊急案件になるかと思います。しかし、これは対処療法つまり「その場しのぎ」に過ぎません。風邪で体調が悪いという「緊急事態」への対応は確かに大切です。しかし、そこで終わってしまうと、いずれまた風邪をひいてしまいます。本当に大切なのは「風邪をひきやすい体質を改善する」「不摂生な生活習慣をあらためる」などのはずです。これは「重要×非緊急」案件となります。ここに目を向けない限り、同じ問題(失敗)が起こります。同じ失敗を繰り返す人は進歩がないって、よく言われますよね。
同様に、仕事でも似たようなケースが思い当たる方も多いのではないでしょうか。「ミスが発覚したが、とにかく応急対応で事なきを得た」といった場合がそれです。真に大切なのは、応急対応ではなく「次からミスが発生しないようにすること」です。でも、残念ながら「のど元過ぎれば熱さを忘れ、また緊急事態に振り回される…」のが、人間の性のようです。だからこそ、本当に重要なことは何か?を自分に問いかける習慣が必要となります。そして、この自問をできた人が失敗を繰り返さない人となります。逆にいえば「緊急事態が収まったとき」は自分を成長させるチャンスでもあるわけです。「やれやれ…」という気持ちはいったん置いといて、何が緊急事態を起こさせたのか?その真因を問いかけてください。
何をしないかを決める
緊急案件のなかでも、「非重要×緊急」を何も考えず実行すると、結果として無意味な行動になりがちなので注意が必要です。こちらも具体例を挙げましょう。営業のAさんは、今期のノルマ達成が厳しい状況です。といって具体的な対策があるわけでもありません。「弱ったなあ、どうしようかなあ…」とため息をつきながら、大した用事もないのにアポイントをとっていた顧客数社を訪問しました。が、残念ながら特に得るものもなく一日を終えます。さて、Aさんのこの行動に意味があるでしょうか?もちろん、営業ですから顧客を訪問することは大切です。しかし、今のAさんにとって、それよりも大切なことは「どの顧客で、どのようにして売上を獲得するかを考えること」のはずです。それはAさんもわかってはいるのですが、難易度が高く気乗りしないので後回しにしてしまいます。といってボーっと過ごしていたら上司に叱られます。何もしない後ろめたさもあるでしょう。そこで、とにかく顧客を訪問することで「仕事をしたこと」にしたのです。これ、厳しい見方をすれば「仕事をしたフリ」といえます。「非重要×緊急」案件を隠れ蓑にして、本質から目を逸らしています。上司と自分に言い訳をしているのです。また、この行動を放置している上司にも問題があります。本当に大切なことは何かを、部下に教えるのも上司の務めですから。(ちなみに、架空の営業Aさんもその上司も、私自身の姿をダブらせながら書きました)
また、無意識のうちに非生産的な行動をとっていることもあります。そんな自分に気づくためのコツは、「何をしないかを決める」ことです。Aさんでいえば「目的のない訪問」が該当します。目的のない訪問を「しない」と決めれば、その分の時間をもっと重要なことに使えます。「あれもこれもしなければいけない」と考えても、全部できる人は稀です。「結果的にできなかったこと」がたくさんあるはずです。どうせできないのなら、最初から「やらない」と決めた方が大切なことに集中できます。これが「戦略的に行動する」ということです。
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ちなみに戦略とは「戦いを略する」こと。つまり「やらないことを決める」と同じ意味になります。特に「非重要×緊急」コーナーには、非生産的な案件が山盛りです。現状を打破したいと思うならば、勇気をもって「非重要×緊急」ゾーンにメスを入れることをおススメします。
優先順位の時間軸
さて、ここからは優先順位の時間軸について考えてみます。重要×緊急マトリクスを使っていると、私の頭がこんがらがってくることがあります。たいていは「短期と長期の区別ができていないとき」です。つまり「今日(今週)しなければならないこと」と、「今月中にしなければいけないこと」が、ごっちゃになっている状態です。営業パーソンでいえば、「本日の営業案件」と「今月の行動計画を立てること」と「来期に向けた新規セールス先のリストアップ」が、同じ表の中にある状態です。この3つに優先順位をつけるには、期間というもう1つの軸が必要になります。「今日」という期間で考えるならば「本日の営業案件」が重要ですし、「1ヶ月」の期間であれば「今月の行動計画」であり、「1年間」ならば「来期に向けた…」となります。
つまり、重要×緊急マトリクスを使う際は、対象期間を明確にすることが大切になります。要は「何基準での優先順位か?」ということです。さらにいえば、短期よりも中長期のほうが、より威力を発揮するのが重要×緊急マトリクスだと思います。1年くらい先を見据えなければ、結局、常に目先のことばかりに囚われてしまうからです。できれば10年先を見据えての重要度をはかり、その上で「この1年間」→「1ヶ月間」→「今週」→「今日」に落とし込んでいく。優先順位とはそのように考えるべきものだと思います。もちろん「本日の優先順位」をつけるために使うのもOKですが、私の経験では最低1週間を対象にするのが望ましいと感じています。
本当に重要なことに時間を使うと、充実した人生を送れる
目先のことばかりに囚われず、長期的に重要なことに時間を配分する。そうしていくと1日1日の時間の使い方が変わり、本当に重要なことに使う時間が増えていきます。では「長期的に重要なこと」とは何でしょうか?考える起点は「なりたい自分の姿」、つまり「理想の自分」であり、もっといえば「理想の人生」となるはずです。そのためにやるべきことが「真の重要なこと」です。
見極めのポイントは「その時にどう感じるか?」ではなく「ふり返ってみて、どう感じるか?」です。たとえば、休日の時間つぶしに、なんとなく始めたスマホゲームにふけって気がつけば夕方になっていた…としましょう。その時は楽しいと感じていますが、1日をふり返ってみた時にはどうでしょうか?「あ〜、今日も充実した1日だった」と思えるでしょうか?もちろん、個人の価値観の問題ですから一概に言えないことは承知しているつもりですが、多くの人は「本当は○○をするつもりだった。□□もしたかった…」と虚しさを感じるはずです(あくまで、私の価値観での感想です)。念のためですが、私はゲームを否定しているわけではありません。私も、時にゲームに興じることがありますから。
たとえば、プロゲーマーやゲームYouTuberを目指していて、そのためにゲームをしているのなら、それは立派に「重要なこと」です。また、ゲームが趣味でゲームをしている時に「自分らしさ」を感じるのであれば、それも大切なことだと思います。自分のありたい姿を体現しているわけですから。他にも「今日はゲーム三昧の一日を過ごすぞ!」と意気込んでいたのなら、それもOKです。問題なのは、「目的意識もなく、なんとなく」時間を費やすことです。たぶんその時間を、後からふり返ってみると「充実」ではなく「虚しい」と感じるはずです。これは仕事にも言えます。自分で目的をもって取りくんでいる仕事と、人から言われたまま惰性でやっている仕事。どちらも同じ時間と労力を費やしています。両者を比べたとき、どらちが充実した時間と言えるでしょうか?どちらが成果を挙げやすいでしょうか?これも私の価値観で恐縮ですが、間違いなく前者だと考えています。そして、本書をお読みの方ならご賛同いただけると思っています。
自分とのアポをスケジュールにいれる
「本当は○○がしたいんだけど、なかなか時間がなくて…」ということってありませんか?この「○○」に入る言葉には「健康のためにジムに通う」「週に1冊は本を読む」といった少々ストイックなこともあれば「旧友の○○さんと会う」とか「旅行」といったプライベートな場合もあります。「自分が心からやりたい」と思うことであれば、それは間違いなく重要なことです。でも、なかなか時間が取れないのは「緊急性がないから」だと思います。つまり、やらなくても誰にも迷惑をかけないからです。ではどうすればいいか?「自分との約束、アポイント」としてスケジュールに組み込んでいくことです。その瞬間に本件は緊急案件となります。不思議なもので、手帳などに「予定」として組み込まれると、やらざるを得ない気持ちになります。
常に新規クライアントを獲得する営業パーソンBさんを例にしてみましょう。Bさんは話が上手いわけでも、斬新な企画を提案しているわけでもありません。彼が他の人と異なる点は「毎週水曜と金曜の午後は新規訪問をする」という自分との約束を、スケジュールに組み込み確実に実行している。ただそれだけです。もちろん、水・金の午後に新規訪問するには、事前に準備が必要なので、火曜と木曜には「新規準備」というスケジュールが入ってきます。このようにあらかじめ予定として組み込むと、その予定から逆算した行動が自然ととれるようになります。
この方法を他の「○○したい」に当てはめてみましょう。「ジムに通いたい」のであれば、ジムの予定を入れてください。その日はいつになく、手際よく仕事を進めるアナタがいるはずです。「本を読む時間がない」のであれば、「毎週日曜の朝はカフェで読書」の予定を入れてください。あるいは、手帳の通勤時間の欄に「○○の本を読む」と書いてください。通勤電車の中で、スマホではなく本を開いているアナタがいるはずです。旅行に行く時間がないのであれば、旅館の予約を取ってください。日程から逆算したダンドリをしているアナタがいるはずです。それでもやらないアナタがいるとしたら…。それはおそらく「それほどやりたいことではない」、あるいは「そこまでの努力をしてまで実現したいとは思わない」ということ、つまり重要なことではないのです。もちろん、予算など時間以外にもいろいろな制約条件はあるでしょうが、少なくとも読書の時間といったことであれば実行できるはずです。
重要×緊急マトリクスで「自分らしく」生きる
と、ここまでいとも簡単にできそうに書きましたが、「それができたら苦労せんわ!」と思われる方も多いでしょう。はい、その通りです。そんな簡単にいかないことも多いです。ただ、これだけは言えます。漠然と頭の中だけで「○○したいなあ」と思っている人よりも、やりたいこと、やるべきことを重要×緊急マトリクスに落とし込むなど「見える化」した人の方が実行、実現する確率が高いということです。つまり、思ったことを書きだして、それを「見返す」ことが大切なのです。たったそれだけのことで、時間の使い方は確実に変わります。時間の使い方が変われば、人生が変わります。生き方って、結局のところ「時間をどう使うか」とイコールだからです。
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自分の本当にやるべきこと、やりたいことを見える化し実行する。この「ほんの少しの努力」を愚直に続けるとどうなるか。最初のうちは「やるべきこと」に追われる時間が増えるかもしれません。人はどうしても目先のことに目が行きがちで、またやるべきことも目先のことが多いからです。しかし、これまで先送りにしてきた、やるべきことを実行していくうちに、少しずつ余裕が出てきます。本当にやるべきことをやっていれば緊急案件が減ってくるからです。すると、少しずつ「先」が見えてくるようになります。その時、自分はどうありたいのか、何がしたいのかをしっかりと自問自答することができます。これが「自分と向き合う」ということです。それに従って「やりたいこと」の時間が増えていくはずです。
自分のやりたいことができるということは、「自分らしく」生きているということです。自分らしく生きている人は、幸せな人生を歩んでいると私は思います。同時に「なりたい自分」「理想の自分」に一歩ずつ近づいているはずです。私は、この重要×緊急マトリクスのお陰で、自分の時間の使い方を見直すことができました。この10年で人生の軌道修正ができたようにさえ思います。もちろん、そこまで大げさに考えなくても、「今の自分にとって、大切なことは何だろう?」と考えるだけでも十分意味があると思います。本記事で紹介した重要×緊急マトリクスの活用が、あなたの人生のターニングポイントとなることを願っています。