京都山科の地に、1960年代に造成された清水焼の郷・清水焼団地。
東山地区での作陶による煤煙問題の解決や作業環境の改善・拡大を目指して、京都のやきもの業界で大規模な移転・移住が行われました。
清水焼団地の紹介
清水焼の郷・清水焼団地。その中は京都のやきもの、京焼・清水焼をスムーズに全国に送り出せるよう、効率良く業種ごとに計画されて配置されています。現在は造成当初に比べると、少し変化があるものの、概ねこのレイアウトは存続されています。
各エリアの代表的な事業者さんを紹介しましょう。
【北エリア】
団地の北側には陶土、磁土など原料を扱う会社が並びます。
土を練るため大きな音が出るということで、新幹線沿いの人家のない北エリアに設置されています。
原料にも様々な種類があり、黒土、白土などといったあらかじめブレンドされた既製品の土や、工房ごとの細かな要望に応じた土などが取り扱われています。
寒い時期には土が凍らないように毛布が掛けられ、その姿はさながら子どもを寝かしつけているよう。
土はかつて京都でも採掘していましたが、徐々に土の取れる場所の宅地化や、京都の土に近いものを、他の産地の土で再現するブレンド技術の向上もあり、わずかながら出ていた京都産の土も昭和中期には流通を終えます。以降、滋賀の信楽の土が広く使われてきましたが、現在はさらに産地を変え、岐阜・熊本などからも取り寄せられています。
しかし、土の産出も後継者問題や売上不振から廃業する事業所もあり、今後は国産原料の維持など、課題は山積みと伺います。
【西エリア】
大通りから奥まった、人や車の往来が少ない山際の西のエリアには、作家さんが展覧会や個展などに向けて作品づくりに専念できるよう、アトリエが集まります。
優れた技術を持つ方へ贈られる勲章や褒章・文化功労者・文化勲章の受章者が幾人も、この地から誕生しています。
若手の陶芸家育成のためのレンタルアトリエ「アートきよみず」も建設。日々、製作活動が行われており、これまでもたくさんの陶芸家が巣立って行きました。
余談ですが、この団地の西の丘には平安時代初期に出来たものと推測される西野山古墳があります。大正時代には後に国宝に指定された副葬品が出土したことから、征夷大将軍で清水寺の創建に深く関わった、坂上田村麻呂のお墓ではないかという説があります。現在、田村麻呂の墓はここより南東へ約3kmの位置に石碑が建てられ史跡指定されていますが、さて真相やいかに……
歴史好きな私はこの手の話にわくわくします。
【中央エリア】
比較的平坦な中央エリアには窯元さんの工房が並びます。
主に卸売店へ納めるための商品が作られ、工房内には成形された陶磁器が並べられて焼成を待っています。
家庭向けの食器や料亭で使われるプロ仕様の器、中には、いけばなの水盤などの花器を専門に作られている工房もあります。
寸分違わぬ大きさのうつわを量産される匠の技。晴れた日には屋外でうつわを乾燥させる様子も見ることができます。
【東エリア】
大通りに面した東エリアには卸売業の店が連なります。
窯元さんより仕入れた商品を店内にストックしておき、百貨店、小売店などの注文に応じて出荷します。そのため運送屋さんのトラックが頻繁に来るため、集荷しやすいようにエリアの入口近くに配置されています。
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こうして、原料屋さんから仕入れた土で作陶し、卸売業から出荷…まちをぐるりと一周すると、京焼・清水焼が出来上がって全国へ発送できるという仕組みに造り上げられたまち、それが清水焼の郷・清水焼団地です。
最先端技術 ファインセラミックス
陶磁器というと食器や花瓶などの普段に使うものや、オブジェといったアート作品といったイメージが強いと思いますが、この清水焼団地ではファインセラミックスといわれる工業用磁器の製造をされている工場もあります。
ファインセラミックスの原料は精製されたアルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニアなどを主に使用。
その製品の特徴は、
・電気を通さない「絶縁性」…電柱に付いている碍子など
・熱に強い「耐熱性」…高輝度照明など
・キズが付きにくい「耐摩耗性」…下水道用の粉砕機など
その他、
・加熱後膨張しにくい
・原料の配合により熱伝導率の調整が可能
・薬品に強い
といった特性があり、血液の成分検査に使う部品にも、余計な成分を検知させないことからセラミックスが選ばれているなど、やきものだからこそのクオリティを生かし、金属やその他素材では賄えない場所に使われています。
また、半導体を製造する機械にもセラミックスは不可欠だそうで、これから益々成長していくと思われる分野です。
成形の方法は一般的な作陶とは異なり、原料はきめ細かく砕かれ、乾燥したものを、圧力をかけて形づくる「加圧成形」や、水分を加えて金型を通して成形する「押出成形」、原料に樹脂を混ぜて型に充填する「射出成形」などで形づくられます。
一方、焼成は食器などと同じく、ガス窯や電気窯で焼かれますが、中には1600℃という高温で焼かれる製品も。焼いている最中に確認すると、もはや赤ではなく、白く輝いてみえるんだそう。
焼き上がった製品は研磨や組み立て、そして厳しい品質検査を経て出荷され、精密機器を支えています。
こうした、やきもの伝統的な技から、最先端の技術まで幅広い分野が同じまちにあるのも、清水焼の郷・清水焼団地の魅力だと考えます。
・清水焼団地協同組合. (2011). 清水焼団地五十年の歩み
記事の内容について清水焼団地協同組合の多大なるご協力を賜りました。