工芸ノオト −京都で出会った手仕事のおはなし− 【知る人ぞ知る素敵な布「西陣絣」】
「クレイジーすぎる!」西陣絣の魅力を感じてください。
それから半年ほどして、郁ちゃんの大学の同級生である染色作家のイシガキちゃんがメンバーに参加し、いとへんuniverseのものづくりは「西陣絣・手織り・手染め」の3本柱になりました。どれもが人の手で生み出される布たちです。結成したときから、和装にはこだわらず、今の暮らしに馴染む布をつくり、挑戦することを大切にしています。
チーム結成翌年の11月にはクラウドファンディングに挑戦し、64名の方にご支援をいただいて京都市内にスタジオを借りることができました。スタジオでは手機を3台設置して手織り制作をしています。西陣絣の経糸に自分好みの色を織り込んでもらえるセミオーダーは、一番人気です。また、洋服に使いやすい広幅コットンの西陣絣にも挑戦し、それらオリジナルの布でサコッシュや眼鏡ケースなどの小物も制作販売しています。
去年からは毎月第2土曜にスタジオを一般公開し、遊びに来てくださる方に西陣絣をご紹介するようになりました(お正月やお盆など都合によってはお休みしています)。
そのときお客様にご覧いただくのが、あの寒い秋の夜にわたしが初めて見た見本裂と、古い西陣絣の紹介映像です。あのときのわたしのように、興奮し、感激しながら、思い思いに西陣絣との出会いを楽しんでくださっているみなさんの様子は、なんとも心強く、嬉しいものです。そして心のなかでそっと話しかけます。「西陣絣、素敵ですよね。わたしも本当にそう思います。この布がどうか次世代に伝えられますよう、みなさんのお力を貸してください」と。
ありがたいことに、クライアントや大学の先生、クリエイターや学生さんなど、活動に共鳴してくださる方がいろいろ手助けをしてくださり、少しずつ輪も広がってきました。郁ちゃんの本業仕事も好調で、唯一の若手西陣絣職人として引く手数多な状態です。西陣絣を築いてきた多くの先人たちもきっと、天国から応援してくれているに違いありません。
けれど、まだまだ、です。
郁ちゃんに弟子ができて、その弟子が独立したとき。あるいは、いとへんuniverseから若い西陣絣職人が生まれたときが、西陣絣のバトンを次世代につないだということになるのでしょうか。
そのためには、わたしたちいとへんuniverseでも魅力的な西陣絣をつくり、もっとたくさんの方に知ってもらい、手に取ってもらわねばなりません。博物館に「絶滅寸前の貴重な布」として飾られるのではなく、「ある日お店で見かけて素敵な布だと思ったら西陣絣だった」というのが理想です。
正直なところメンバーそれぞれが本業を続けながらの挑戦になるので時間的な制約も大きく、一足飛びに飛躍するのは難しいのが現状です。けれど、西陣絣に興味を持ってくださる方々の力を借りながら、一歩一歩積み重ねていくしかないと思っています。もちろんわたし自身も「西陣絣の大ファン」として、もっともっと伝える努力をしていくつもりです。
どうぞみなさん、西陣絣に触れにスタジオへ遊びにいらしてください。メンバーとまだ見ぬ素敵な布たちが、みなさんをお待ちしています。
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染織や紙を中心に地元京都の工芸を取材し、WEBや雑誌に寄稿。
2014年に西陣織の職人さんたちと西陣絣を伝える「いとへんuniverse」を結成。個人でも西陣絣の研究活動を続けている。また、2020年より染色作家岡部陽子と手染毛糸Margoを立ち上げ、インディダイヤーとしても活動中。
|いとへんライター・文筆家|西陣絣/伝統/職人/糸
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