京都の中にあまたあるもの、そのうちの一つが和菓子屋さんです。この和菓子屋さん、京都にはホンマに多いのですが、いろんな種類があるのですよ。私の独断と偏見で分類すると5種類。
その1つ目が、今回ご紹介する茶道や儀式で使われる「京菓子」を販売したはるところです。上京では、「とらや」さん、「鶴屋(吉信)」さん、「俵屋(吉富)」さん、「玉寿(軒」)さん、「塩芳(軒)」さん、「老松」さん…と、ホンマに数多くあります。そのどこもに歴史があって、季節に合わせたお菓子を素晴らしい技術で作りだしたはります。こういったお店に関わる思い出と、京都人の暮らしについてお話させていただきます。
まずは俵屋吉富さん。私の父の実家は室町学区で、俵屋吉富さんの近くにあります。父が小さいころ、親戚の寄り合いがあると、必ず俵屋さんのお菓子を買いに行かされたそうです。その時は一緒に父の分も買うて良かったとのこと。昭和の初めですが、そのころは今のようにたくさんのお菓子の種類が無かったので、父は「寄り合いの日が来るのが待ち遠しかった」と言うてました。
みんなが集まる日、何があったかというと、親戚同士で作った謡の会「親友会」の稽古でした。西陣や室町にある西陣織の織元・織屋では、謡を習うことがひとつの教養となっていて、何かあればお能の会を開いたり、そこで謡を披露したりしたそうです。その技を磨くため、身内の会で稽古をしていたんですね。
稽古の日、集まった人らが一斉に謡を始めると、もちろん外にもよう聞こえます。うるさなかったんかな?とか思てしまいますが、町を歩いたら謡が聞こえるのが当たり前の場所やった。なんと趣のある街角なんやろ…しかし謡の一つもできひんと、「素養のないやつやな」と言われかねへんちょっと怖い町でもありました。
そんなことで、父も耳学問ながら謡曲はたくさん知ってました。叔母の結婚式でも高砂を謡(うと)うたようですが、昔、叔母に聞いたときは
「…ちょっとな。」
て苦笑い。
父からは「頑張って謡うたえ。」て聞いてたのに、気の毒に…
私は和菓子が大好きですが、小さい頃は餡があかんかったんですよ。母がパクパク食べている羊羹を見るだけで気分が悪うなってたのに、今はつぶあんこしあん白あんと軒並み大好物です。こういった一流のお店のお菓子は、豆のお味だけやのうて、なにかしらもう一味加わっているような気がします。それも店それぞれの工夫があって、食べ比べも楽しいですね。
さて、俵屋さんに並ぶ京菓子屋さんの一つである「鶴屋吉信」さんの店頭には、いつも工芸菓子が展示されています。季節の移ろいがこのお菓子で知ることができますね。
御所の前にあるのは「とらや」さん。こちらは「京菓子」というのかちょっと悩むところですが、京都発祥のお店ではあります。京都店には創業者である黒川家のお仏壇があり、京都は特別な場所として大事にしてくれたはるようです。京都の人も、なにか特別なときのお持たせには、とらやさんのお菓子を選ばはることが多いです。羊羹の「夜の梅」が有名ですが、黒砂糖仕立ての「おもかげ」も風味が良うて美味しいですよ。
北野の天神さん(北野天満宮)のすぐそばにある老松さんも、大変美味しい京菓子を作らはる老舗名店です。ものすごこだわりを持った若い職人さんたちがやはります。情熱を持った方で、いろんな挑戦をしたはる様子がようテレビでも映ってます。そういう人らが次の世代へ京菓子を伝えていかはるのですね。
西陣には親戚同士のお店も多いのですよ。例えば、本家玉壽軒さんと千本玉壽軒さん。もともと本家さんは千本玉壽軒さんがある場所で創業しやはったとか。その後、本家さんが今出川大宮の今の場所に移らはったということでした。西陣の千両ヶ辻でいくつものお寺の御用達を務めやはる名店で、私の母は、こちらの最中が大好きでした。注文してから餡を詰めてもらえるので、皮のパリパリ感が美味しさを引き立てます。派手なことをしやはらへん、でも、地味やけど間違いのない味をずっと引き継いだはるお店です。
もう一つ、親戚同士のお店。黒門通中立売上ルにある塩芳軒さんは大正時代から続く名店ですが、10数年前、塩芳軒さんのご親戚のお店が西陣に生まれました。その名は聚洸(じゅこう)さん。塩芳軒さんの次男さんのお店です。
塩芳軒さんもとても美味しい美しい京菓子を作らはりますが、聚洸さんもまだできて歴史が浅いのに、遠いとこから買いに来やはるほど有名です。西陣の北にありますが、千家さんからも近く、茶道の御用を意識した位置にあることがわかります。
私たちの会では、上京区の支援事業として、子どもたちに聚洸さんのお菓子とお抹茶を出したことがあります。子どもらの味覚はまだそんなに発達してないのでわかるやろか?と思いましたが、全くその心配は無用でした。
「きれいやなぁ!」
と言いながらお友達のお菓子をのぞき込む子どもたち。
「うわ~美味しい!」
「もっとほしい!」
「1個だけなん?」
ふだん、餡系のお菓子を食べへん子どもらの感想です。
美味しいものは子どもでもわかるのやなぁと改めて思いましたね。
中には
「お菓子食べてからお抹茶飲んだら、お抹茶が美味しくなった!」
という子どももいました。
なかなか渋いやないですか。
京都の子どもたちは、すぐ近くにある素晴らしい京菓子を見て、味わって育ちます。お抹茶も普段の生活の中にあり、小学校でいただくことも珍しいことやありません。こうやって京都の子どもは京都人になっていきます。
京都の中、特に上京は三千家のお家元が住んでおられることから、お茶に関わる行事も多く、住民がお茶文化にどっぷりと浸かって生活をしています。子どもらにこの文化をずっと楽しんでもらえるよう、意識して伝えていかなあかんなぁと改めて思うところです。