千本通は全長17kmにもおよぶ長~い道路として京都市を南北に貫いています。その千本通が最もにぎやかなのは上京区内の鞍馬口通りから丸太町通りの間でしょう。ところで、みんな普通に「センボン」と呼んでいますが、そもそもなんで「千本」なのでしょうか。千本というからには、何かが1,000本あるのでしょうか。今さらの素朴な疑問を明らかにしたい思います。

                                                                                   
唐突ですが、平安京のメインストリートはどこだったかご存知でしょうか。現在の堀川通?烏丸通?河原町通?四条通?五条通?いえいえ、正解はなんと!千本通だったのです。まあ、文脈からある程度予測されたと思いますので「なんと!」感は乏しいですが…。千本通は当時、「朱雀大路」とよばれ、平安京の入口である羅城門(今の九条通)から、皇居である大内裏の正門・朱雀門に一直線にむかっていました。全長は約3.7km、道幅はこれこそ「なんと!」の85mもありました。しかし、クルマのない時代になぜこんなバカでっかい道を作ったのでしょうか。たぶん天皇の権威の象徴としての意味あいもあったのではないかと。そんな平安京の象徴ともいえる朱雀大路でしたが、水難や大火事、さらには源平の戦いもあって平安京の中心はどんどん東に移っていき、気がつけば朱雀大路は平安京の西の端になっていました。おそらく千本通と名付けられたのはこの頃だと思われます。
                                          

で、本題の「なんで千本通なん?何が1,000本あるの?」の謎に迫ります。これには諸説がありまして、ひとつは「千本の桜が並木をつくっていた」というもの。千本通鞍馬口下ルに千本閻魔堂(引接寺)という寺があり、この地は遅咲きの桜で有名な「普賢象桜」発祥の地として有名です。この「千本の桜説」は雅な平安京のイメージにぴったりですが、それとは真逆なのが次の説です。

千本閻魔堂

千本閻魔堂

またまた「なんと!」になりますが、「道の両側に千本の卒塔婆が立ち並んでいた」というものです。卒塔婆とは故人の供養のために、お墓のうしろにニョキニョキっと立ててあるアレです。細長い板に読みにくい字で戒名が書かれています。本来はお墓や仏壇と同じでありがたいものですが、卒塔婆が千本も並んでいる光景ってかなり不気味です。ゲゲゲの鬼太郎の歌でおなじみの「妖怪スター大集合!ナイター運動会in墓場」では、万国旗の代わりに卒塔婆が飾られているような感じでしょうか。

卒塔婆

卒塔婆

この卒塔婆説をリアルに描いたのが「菅原道真の供養説」です。菅原道真といえば島流し級の左遷を醍醐天皇から命じられ、怨霊となったことで有名ですよね。その道真死去から約40年後のある日、日蔵上人(って誰やねん?真言宗のお坊さんだそうです)の夢枕に醍醐天皇が現れます。そのとき地獄で苦しんでいた醍醐天皇は「自分が地獄に落ちたのは、無実の罪で道真を左遷したからだ。だから道真の供養として、千本の卒塔婆を立ててお経を読んでくれ」と日蔵上人に頼みます。夢からさめた上人は言われたとおり、葬送の地として有名な船岡山に千本の卒塔婆を立てて弔いました。その船岡山から南に通じる道を千本通と名付けた…ということです。この説の真偽よりも「天皇も地獄に落ちるんだ…」ということに驚いてしまった私なのでした。

船岡山から望む

船岡山から望む

とまあ、いろいろな誕生秘話をもつ千本通はその後、さまざまな顔をもつ街として変化を遂げていきます。西陣織の全盛期には娯楽街となり、職人や商人たちが憩いを求めて通いつめました。千本中立売には「五番町夕霧楼」の舞台でもある遊郭街「五番町」があり、新京極にちなんだ「西陣京極」にはストリップ劇場もありました。ちなみに西陣織の社長クラス、すなわち旦那衆の癒しの場は上七軒でした。また、千本通は映画の街としても名を馳せ、往時には一条通から出水通の約500mの間に4軒もの映画館が連なります。その中にはホモ専門のポルノ映画館もあるなど、昭和の千本通はディープな香ばしさがプンプンしていました。現在の千本通はずいぶんと様変わりをしましたが、「下駄ばきで楽しめる通り」といわれた当時とかわらず気さくな商店街として市民に親しまれています。

以上、「千本の桜説」と「千本の卒塔婆説」をご紹介しました。平安ロマンを愛する私としては桜説を支持したいところですが、現代の10倍くらい怨霊を恐れていた当時の背景から察すると卒塔婆説が有力だと思ってしまうリアリストの私もいるのでした。

しかし、卒塔婆説が本当ならば皇居前の通りがエライことになったものですが、これが京都のおもしろさでもあり、京都の奥深さでもあると思います。

(編集部 吉川哲史)

関連するキーワード