夏越の大祓に行って厄をかぶる話【京都人度チェック】

なんやかんや言うて、気が付いたらもう6月も末。1月は往(い)ぬ2月は逃げる3月は去るいうて、そのあとはもう月日は飛ぶがごとく。毎年、え~半年過ぎたんかいな!と思い返して、時間の無駄をしたことを悔やむ時期となってます。さて、おうち(あなた)は半年何してきましたか?

私は自粛の間、家の掃除をするて言うてたのに、なんか荷物増えてるような。怠け者の性分は抜けませんわ。反省点が梅雨の大雨のように降りかかってくるころ、月末には「夏越の大祓」がやってきます。

この「夏越の大祓」、やりようによっては厄除けどころか厄かぶりになりかねんことになること知ってましたか?ちょっとこのあたり、「京都人度チェック」でお尋ねしながら順番にお話していきますね。

京都人度チェック⑤-1

「夏越の大祓」では何をしますか?

まず、「夏越の大祓」っていうの、読めますか?

これは「なごしのおおはらえ」と読みます。

「夏越」は読んで字のごとく「夏を越す」という意味。
そして「大祓」は罪や穢れを払い落とす神事のことです。

「大祓」は年2回、つまり半年にいっぺん行われます。半年も経ったらやったらあかんことやってしもたり、ちょっと悪いこと考えてしもたりすることもあるでしょう。病気にかかってえらい目に遭うたりするかもしれません。そんな災いや厄を落として、次の半年を気持ち良う過ごしましょ、っていうのが「大祓」なんです。


「夏越の大祓」でやることの1つ目 ―「人形」

はい、チェックの答え、説明していきましょうね。
夏越の大祓ですること、1つ目は「『人形』に厄を吹き込んで清めること」。

人形とは、「にんぎょう」とちゃいます。「ひとがた」って読むんですよ。

人形に息を吹きかけて(3回のところが多いです)、この半年にたまった災厄をそこに遷(うつ)すのが作法。

この動作、どこかで見たことないですか?映画やテレビ番組であった「陰陽師」で、「式神(しきがみ)」を動かすときにやる動作です。息をフッと吹きかけると人形に命が宿って動き始める、アレですわ。大祓では、それやってるんですよ。すごく呪術っぽいですよね!

あ、もひとつあった。「千と千尋の神隠し」のなかで、銭婆がハクを攻撃するのに使ってた紙切れ。息を吹きかける動作があったか記憶にないのやけど、あれも人形でしたね。

息を吹きかけた人形は「夏越の大祓」のとき神社へ納めてお焚き上げしていただき、すべて浄化されます。なんか身体の中から清められたみたいで気持ちいいですね!しっかりやっておきましょう。

そうそう、今宮神社さんでは神事のあと、お焚き上げに使ったのと同じ杉の枝をいただけますよ。あ、あぶり餅はついてません。


「夏越の大祓」でやることの2つ目 ―「茅の輪くぐり」

「夏越の大祓」が行われる神社には茅の輪が設置されます。

大体は◯の形してますが、重さに耐えかねて、下部分がペタッとまっすぐになってるものもあります。まぁ繋がってたら「輪」やと思っときましょう。これをくぐって厄を落とします。なかにはUの字型で縄跳びするみたいに越すのもあるそうですよ。

さて、ここからはどのサイトにも良く書かれていることなのでさらっといきますよ。

まず、くぐる時唱える呪文があって、左→右→左と回りながらくぐりますね。

「水無月の なごしの祓 する人は ちとせの命 のぶといふなり」

が一番有名。城南宮さんは、「水無月の」が「とはのもり」になるそうです。

他にも

「思ふ事 皆つきねとて 麻の葉を きりにきりても 祓へつるかな」
「蘇民将来、蘇民将来」

とか、パターンはいろいろです。

「蘇民将来」は、スサノオノミコトさんを泊めてもてなしたので、スサノオノミコトから「茅の輪を持ってたら病や災厄を逃れるよ」と言われた方ですね。ほら、さっきの杉の枝についてた文字、覚えてますか?

これ、祇園祭の粽にもついてますよね。おんなじ意味なんですよ。今宮さんの疫神も祇園(八坂神社)さんのご祭神も同じスサノオノミコトさんですからね。蘇民将来の子孫や!って言うたら守ってくれやはるんです。ありがたいですねぇ。

さて、この茅の輪くぐり、人形のように内側から災厄を取り清めるのではなく、外から吸い取るんです。3回くぐるたびにズボッ、ズボッ、ズボッです!!茅の輪を作ってる茅(ちがや)に吸い取られていくんですよ。輪型の掃除機みたいに吸い込まれるイメージでくぐったら、きっと気持ちいいですよ!

これも思い浮かんだんですが、「ハリーポッター」の映画で出てくる、ほれ、「ディメンター」みたいなイメージですかね。もう顔の皮剥けそうなほど吸われるやつ。あ、あれは幸せを吸い取るのか!正反対どしたな。

効き目のあるお詣りのしかた

いつも「京都人度チェック」では、続いてこれを聞きます。

京都人度チェック⑤-2
「夏越の大祓」ではどこへお詣りに行きますか?

ホンマのところ、「夏越の大祓」で何をするか、ていうのは京都人にとっては知ってて当たり前のはず。何はともあれ、お詣りに行くことが大前提です。知ってるだけではダメ。ちゃんと行事をやってもらわんとね。それで、チェックでは行く神社も書いてもらうんですよ。

いままで「神社で行う」と書いてましたが、京都人にとって、行く神社は決まってます。それは、「氏神さん」。いくつか行くにしても、まず氏神さんのところに行くんです。

もちろん、近所の神社さんや好きな神社さんに行ってもそれがあかんとは言いませんが、私は氏神さんを強く推奨いたします!

なんでかというと、本来これはその神社さんの氏子さんのために行ったはる神事なんです。そら効き目がちゃいまっせ。まずは氏子にご利益あげる、て言うたはるのやから、だいぶよう効きます。

それからもう一つ。できたらお詣りは1つか、せめて2つくらいの神社さんにしてほしい。はしごはあんまりご利益の効率がええことありません。

夏越の大祓って、京都だけやのうて全国の神社さんでやらはりますよね。もちろん京都の神社さんは行事の大小は別にして、まずやらはる神事です。すると京都には神社がたくさんあるのであっちこっち行きたくなるんですよねぇ。茅の輪くぐりとかお焚き上げはインスタ映えするし。そんなシーンを撮りに来る方もわんさか来やはります。

気持ちはとってもわかるんですよ。私も写真撮りますしね。でも、これはイベントやなくて神事。撮ったら神事にも参加してほしいですね。

で、この夏越の大祓神事は必ず6月30日に行われますが、開始時間はほとんどが15時以降です。それぞれの神社さんが同時に行わはるようなタイミングなんです。ていうことは、他の神社さんの神事のはしごをしようと思ったら、1つ1つの神事に参加してる時間が短こうなってしまうんですよ。うっかりしたら最後まで終わらんうちに次に行かんとあかん。それでは効き目も薄れてしまいますわなぁ…

外から来た方などは、氏神さんやのうてもせめて「今年はここの神社さんで厄払おう」と思って、じっくり神様にお願いしてください。神さんもきっと「おっ!」て目を留めてくれやはります。あるいは30日の神事にこだわらへんのやったら、30日より前にちょっとずついろんな神社で茅の輪くぐりしとく、ていう手はありますな。

茅の輪くぐりのあの「タブー」

さぁいよいよ厄かぶりするかどうかの問題です。

京都人度チェック⑤-3
「茅の輪くぐり」のときにしてはいけないことはなんでしょう?

これは最近かなり言われるようになったことですが、まだまだやってる方多いです。

答えは
「茅の輪を抜いて帰ること!」

これ、神社さんホンマに困ったはります。自分がくぐったあと、自分で小さい茅の輪作るために抜く人がいるんですね。みんなが抜いたら何が起こるかというと、茅の輪が無くなります。無くなったらどうなります?

あとから来る人が茅の輪をくぐれんようになるんですね。

天神さん(北野天満宮)が特にひどい!前日夜から準備しやはった茅の輪が、翌日お昼にはずんべらぼんになって、上の部分しか残ってないんです!

しまいにはこんなふうに…
横の竹が見苦しいし、そのままにしとくと危ないので取り除くのやと、神官の方が悲しそうにおっしゃっていました。

天神さんは、何十年も前から抜いて帰る人が多いんです。横に立て看板があっても、メガホンで叫んだはっても抜いていかはります。

これは
「持ち帰った茅を輪にして飾っておいたら病にかからへん」

ていう「誤った」民間風習が生まれてしもたからなんです。

私は小さいころから毎月25日、母に連れられて天神さんにお詣りに行きましたが、茅の輪が設置される6月25日には母からいつもこう言われてました。

「この茅の輪は抜いたらあかんのえ。茅には、ここをくぐらはった人の厄が全部吸い込まれてるのん。そんなもん持って帰ったら家が厄だらけになるやろ?絶対あかんえ。わかったか!」

そらもう返事するまで言われましたし、よっぽど「やったらあかん」ことなんやなぁと、子ども心にも思ったもんです。

神官の方も言うたはります
「民間の風習はなかなかすぐには変わらないだろう。でも、この神事は古来からずっとこの形できている。だから、茅の輪を抜く人が多いからそのような形に神事が変わっていく、というようなことはこの先も絶対ない。」と。

そしたら、持って帰りたい方はどうしたらええのかというと、茅の輪のお守りを授与してもろてください。ちゃんとご祈祷してあるので安心ですよ!

他の神社さんでも茅の輪守りはありますし、中には八坂神社さんのように持ち帰り専用の茅を置いてあるところもあります。(注) 西院の春日神社さんも抜かれることが多くなってきたようで、抜かんように茅の輪くぐりの看板には注意書きがしてあるそうです。

ひとつ例外なのは建勲神社さん。こちらの茅の輪の茅は持ち帰れます。ただし、全員がくぐったあとです。解体して持ち帰れるようにされるそうです。こちらはそういう習わしということですし、きっと「みんながくぐる」ということを大事にされてるのやと思いますね。ただし、いくら持ち帰れるというても途中で抜いたらあかんのですよ。

あぁしかし今年は特に吸い取っていただきたい、あのコロナウイルスを!なので、すべての方々が厄を祓うことができるよう作法を守って、厄をかぶらんように「夏越の大祓」をしてくださいね!

みなさんに神様のご加護がありますように。コロナ退散!疫病退散!!

(注)今年はコロナ感染対策のため、八坂神社さんの持ち帰り用の茅は無いそうです。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いたライター

 
上京の、形になりにくい文化(お祭・京都のおかず・伝統工芸・京ことば)の継承のお手伝いをする「京都上京KOTO-継の会」会長。
「鳴橋庵」店主。
「能舞台フェスタ in 今宮御旅所」実行委員会会長。

組紐とお抹茶体験を鳴橋庵店舗にて行っております。
合間合間に京都のお話を挟みつつ、楽しく体験していただけます。
お申込みは「鳴橋庵」HPまで。

|鳴橋庵 店主・京都上京KOTO-継の会 会長|お盆/織田稲荷/京都人度チェック/パン/氏子/十三参り