伝統産業のレア意匠たち

京都の伝統産業に関わり始めて、7回目の春が訪れようとしています。こう書くと、とても長い年月を感じます。
 
私は着物に色をさ挿す友禅職人の経験を経て、今は職人さんの技術を生かした商品開発をし、販売を行なっています。年間たくさんの工房にお邪魔し、仲良くなっては飲みに行ったりカラオケに行ったり…あ、時にはちゃんと真剣に未来の伝統産業を憂い語り合っています。まるで毎日映画の中にいるようなめまぐるしい日常を、京都伝統産業界隈の端っこでさせてもらっています。
 
京都市の伝統産業品は条例により、陶磁器や染織工芸品、伏見の清酒やお漬物などの食品に至るまで、74品目もの多種多様な分野があります。私の出身である大阪市内では欄間や銅器など合わせてわずか10品目なので、比べてみると圧倒的な多さです。
 
神事・仏事に関連する品目が多いのも京都ならでは。そんな京都の伝統産業ですが、職人さんの手技に支えられているのはもちろんのこと、「意匠」の存在も大きいです。空きの出た看板に「意匠製作中」と印字されているのを見られた方も多いかと思います。要はデザインのことなのですが、今回は美しい、面白い意匠の見所スポットをご紹介したいと思います。
 
 
 

1 京都迎賓館のつづれ織

京都を案内する際にまず一押しなのが「京都迎賓館」です。京都御苑の敷地内にあるこのおもてなしの最高峰の建物の中は、至宝の品々で溢れています。
 
特に「藤の間」の壁面を彩るつづれ織は日本画を下絵に製作され、高さ3.1M幅16.6Mの織物の中にたくさんの花が散りばめられています。その形や色が写実的なようで、幻想的です。前面に白あげの花々が配置されているのに奥にあるはずの芙蓉や牡丹が真っ赤なのが、なかなか技法的に見られるものではないのではと思います。しかし、全体で見れば何とも言えないバランス感があります。私の様な平凡な人間では絶対にやらないような配色に頭が痛くなりました。

▶︎菊池杏子と見るつづれ織の世界



2 瀧尾神社の彫り物

東山区の本町通沿いにある小さな神社なのですが、ここの彫り物が本当に凄い!
 
木とは思えないウネウネとした拝殿天井の龍、細かくあしらわれた社殿の干支、霊獣、手水舎に至るまで数々の立体感ある彫り物に、とても感動したのを覚えています。こういうものを見ていると芸術と信仰と生活が密接に関係しあっているところから文化が生まれるのかもと思わせられます。
 
こんな凄いものが、入場料を払わなくても見られるって凄すぎる。
 
街中にこのような芸術がゴロゴロとしているのも京都の魅力の一つですね。ここのお祭りがまた面白いのでご興味ある方は是非。
 
 
 

3 長刀鉾のなめくじ

左側欄縁には羊、麒麟に、なんとミミズ、なめくじ、 後面には鶏、狼などの装飾が施されている。

祇園祭で数々の懸装品に彩られた長刀鉾に見る事が出来るのが「なめくじ」の金属工芸品です。
 
え〜なめくじ!?気持ち悪い!
そう思わんと、これがまた珍しいんです。
 
長刀鉾は女人禁制のため私も実物を間近で見た事はありませんが、高欄部分に外向きに取り付けられているので目を凝らせば外からも見る事が出来ます。金属工芸品の動物の意匠といえば鶴や獅子など、吉祥に由来するもが多いのですが、その中で「なめくじ」はレア中のレアです。今のようにネットで画像を見たり海外の書籍が簡単に手に入らなかった時代の意匠ほど、時に凄い創造性を見る事が出来ます。
 
 
 
いくつか意匠に絞って紹介をさせてもらいましたが、もちろん製作に関わる技術もぎょっと驚くことばかりです。また、追々書かせて頂きたいと思います。
 
 

西陣織の紋意匠職人が語る「西陣織とは」を読む

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この記事を書いたライター

 
昭和61年生まれ。
京都造形芸術大学染織コース卒業。
現在、京都市在住。
伝統産業の技術を生かした商品開発と販売を行なう傍ら、神社のライトアップイベント・百貨店の催事コーディネートなど、多様なお仕事をさせて頂いています。
近頃は寿ぎの文化を学びながら、「お祝い」をテーマに新商品を開発中。

|八尋製作所代表|意匠/京都迎賓館/つづれ織/瀧尾神社/長刀鉾