私にとっての「仕事」とは

そもそも祖父が戦後にこの家業を始め、祖父から父、父から母へ受け継がれ、今現在は私たち姉妹が引き継いでいます。実演をしていると「細かい仕事ですね」 と言われますが、子供の頃から見ていたので特にそうは思わず、自分はコツコツ努力するタイプなので向いていると思いましたし、当時は忙しかったので母を助けるつもりで始めました。その頃はちょうどバブルで、職業を聞かれると“伝統産業に従事している職人”と説明するのが恥ずかしかったのですが、今は「凄いね」と言ってもらえるので、時代は変わるものだなと思いました。「継続は力なり」と最近は身を持って実感しています。

この仕事をしているとよく「絵を描くのが上手くないとできないですよね」と言われます。確かに綺麗な織物を作り出すためには、図案のイメージ通りに仕上げる絵画的な要素も必要ですが、その他に織機の動きに過剰な負担をかけないこと、糸を無駄に使わないことなどを数値化して組み合わせるプログラマー的な要素も必要です。

複雑で難しい織物がミスなく織りあがった時には、達成感とともに喜びを感じます。誰かがミスをすると関連工程全てに迷惑がかかりますので、気をつけてはいますが、やはりうまく織れないこともあります。そんな時は激しく落ち込みますが「昔の人もやってきたのだから、自分にもやって出来ないことはない」と言い聞かせ、気持ちを切り替えるようにしています。そしてもうひとつ、素直に謝り修正すること。この当たり前の事が大人になってなかなか出来ないのですが、迅速に誠意をもって対処するように心がけています。分業化されている分、コミュニケーションがうまく取れていないとトラブルにもなりやすいので、チーム全体の連携が上手くいくようにするのも仕事のひとつだと思っています。そういった意味では、仕事とはまさに人生そのものだとも感じます。

西陣織業界も、着物の着装機会の減少や高齢化に伴う後継者不足が深刻ですが、千年の都「京都」ならではの技術と先人達の精神を次世代へ繋げる一助となるように頑張ります。

西陣碑

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尊行碑

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この記事を書いたKLKライター

西陣意匠紋紙工業協同組合 理事
五十嵐 亜紀

 
1969年、京都市右京区に生まれる。
祖父が創業した「紋意匠」の仕事を受け継ぎ現在に至る。
双子の姉とともに阿吽の呼吸で、女性ならではの感性を活かし、“アトリエいがらし”で日々物作りに励んでいる。
2001年 伝統工芸士 認定
2010年 京都染織青年団体協議会 会長 就任
同年 未来の名称 認定
2011年 西陣意匠紋紙工業協同組合青年会 幹事長 就任

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五十嵐 亜紀

 
1969年、京都市右京区に生まれる。
祖父が創業した「紋意匠」の仕事を受け継ぎ現在に至る。
双子の姉とともに阿吽の呼吸で、女性ならではの感性を活かし、“アトリエいがらし”で日々物作りに励んでいる。
2001年 伝統工芸士 認定
2010年 京都染織青年団体協議会 会長 就任
同年 未来の名称 認定
2011年 西陣意匠紋紙工業協同組合青年会 幹事長 就任

|西陣意匠紋紙工業協同組合 理事|西陣織/帯/織装置/紋意匠/伝統産業

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