5.多世代が暮らせる様々な機能の挿入

堀川団地に多様な世代が暮らすことができるように新築棟と改修棟それぞれの適性に応じて、様々な機能を挿入することを提案している。
具体的な機能の挿入イメージを図7に示す。

現在の大きなニーズである高齢者福祉を中心に、地域の障がい者、元気な高齢者、商店主、子育てファミリーなど多様な人々が暮らすことのできる住宅・テナントのバリエーションを提案している。
具体的には、サービス付き高齢者住宅、コミュニティ銭湯、介護予防軽運動スペース、障がい者グループホーム、地域福祉テナントスペース、短期居住・ユースホステル、低家賃住宅などが想定されている。
これらの機能は単体で存在するのではなく、互いに連携しあう必要があり、その役割を担うのが「地域交流サロン」である。
この地域交流サロンでは、地域の人々を対象にした交流イベントが行われ、日常的にとの接点を持つことができることを目指した。
この地域交流サロンは、「マチカフェ」として実際の再生事業においても取り入れられている。

図7.建替え棟・改修棟に応じた機能の挿入イメージ

図7.建替え棟・改修棟に応じた機能の挿入イメージ

6.おわりに

今回は、「堀川団地‘やわらかい’まちづくり再生ビジョン」の内容の一部を紹介した。
先述したとおり、この再生ビジョンは「完成図」ありきで考えるのではなく、まちの将来の変化に柔軟に対応するという‘やわらかい’団地再生を提案している点が大きな特徴である。
この再生ビジョンの中では、紹介したもの以外にも「堀川京極の再生」という商店街を含むエリアの再生に関する提案、「まちづくり会社の設立」という団地を含むエリアをマネジメントする組織作りに関する提案も行っている。
ご関心のある方は参考文献にURLを記載しているので、本文をご一読いただきたい。

実際の再生事業は、西陣の玄関という堀川団地の立地を踏まえ、「アートと交流」というコンセプトが加えられた。
‘やわらかい’団地再生という理念に立てば、2020年までの再生事業は、まだ第一段階とも言うべきものであり、まちの変化に合わせて今後も団地再生のまちづくりを継続していくことが重要である。

一方、再生ビジョンの理念の継承という課題を感じている。
再生ビジョンの提案から8年が経過し、再生ビジョンの内容を理解している関係者はほとんどいなくなってしまった。
個人的には、「アートと交流」というコンセプトをアップデート(進化)させる時期に来ていると感じている。
今までの再生事業を振り返り、次の再生をどのように展開していくのかについて、改めて議論を深めていくべきではないだろうか。

参考文献

京都大学髙田光雄研究室(監修:髙田光雄,執筆:安枝英俊,生川慶一郎,森重幸子,宮野順子,土井脩史,織田幸司,荒木公樹,牧野高尚):堀川団地‘やわらかい’まちづくり再生ビジョン,2012.3
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この記事を書いたKLKライター

住宅計画研究
土井 脩史

 
住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
京都・大阪を主な研究対象として、これからのストック活用時代における住宅計画のあり方について研究している。

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住宅計画研究者。博士(工学・京都大学)、一級建築士。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科・専任講師。
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