
京都独特の住所がもたらす「誤配のメカニズム」
京都の住所を宅配ドライバーの視点で読み解くシリーズ第4弾です。「上ル下ル」に代表される京都の難解な住所と悪戦苦闘した上京区の元配達員である筆者の声をお聞きください。【編集部/吉川哲史】
※なお、本稿で記載している「京都独特の住所」とは、主に上京区・中京区・下京区を中心とした、いわゆる平安京に該当するエリアが対象となっておりますことをご了承ください。
仕事にミスってつきものですよね。あるエラい人の言葉に「ミスをするのは仕事をしている証拠」みたいなのがありました。そう、失敗を恐れていちゃ何もできないのが人間という生き物なんです。
もちろん配達のお仕事にも、いろいろなミスがあります。中でも4大ミスといわれるのが「誤配・荷落とし(紛失)・破損・約束不履行」の4つ。最後の「約束不履行」ってのが法律用語みたいでわかりにくいですよね。要は「配達指定時間を守れなかった」ってことです。遅れるのはもちろん、フライングもNGです。
さて、これらの中でもっとも私が恐れていたのが「誤配」です。配達の現場を離れてずいぶんと経つ私ですが「誤配」の2文字を見ると、いまだにドキッとしてしまいます。そこで「京の宅配ドライバー上ル下ル東奔西走記」PART4の今回は、誤配はなぜ起こるのか?を上ル下ルに代表される「京都独特の住所と誤配のメカニズムの関係」と題して究明してみたいと思います。
誤配とは?
誤配とは、読んで字のごとし。本来のお届け先とは違うお宅に誤って配達してしまうことです。私の配達所では先ほどの4大ミスの中で、誤配が最も罪が重いとされていました。なぜ誤配が重罪なのか?理由は2つ。まずはご迷惑をかける関係者が多いことです。たとえばAさんからBさんへの贈り物を誤ってCさんに届けたとします。この場合、AさんBさんCさんの3者にご迷惑をおかけすることになります。特に厄介なのが、間違って受け取ったCさんが、誤配に気づかずに食べてしまったというケースです。食べたものを返してくれというわけにもいきません。もちろん代品は配達所が用意することになります。
しかし、それ以上に厄介なのが「AさんがBさんに贈り物をした」という事実が第三者に知られるということです。たとえば、Bさんが学校の先生で、Aさん家がその生徒という関係であり、かつ間違って受け取ったCさん家がAさんとクラスメートであったとします。
このCさんが噂話大好きの俗にいう「スピーカー」であれば「Aさんからの贈り物を受け取ったB先生は、Aさんをエコヒイキしてテストの点数に下駄をはかせた」なんて噂を立てないとも限りません。しかも、Cさんはご丁寧に話を盛って、贈りものは3,000円くらいのお菓子だったのに「松坂牛焼肉セット1万円也」にグレードアップしていた、なんてことも…。
このように、誤配が元で個人の(機密&怪しい)情報がダダ漏れになるので、誤配は罪が重いとされるのです。なお、この話は限りなく実話に近いエピソードを元に書いております。レアなケースではありますが、間の悪いことってあるものなんですよね。事件当時の配達所長は、関係各所に怒られ倒し謝り倒して憔悴しきっていました。ちなみにこの事件の張本人となった配達員が私ではないこと、自分の名誉のためにも念のため記しておきます。
誤配のメカニズム ~人はなぜ誤ってしまうのか?~
では、本題の「誤配のメカニズム」に入りましょう。ひとくちに誤配の原因といっても色いろなパターンがあり、その理由によって罪の重さも変わってきますが、大きく分けると次の3つになります。まずはもっとも普遍的なパターンからご紹介します。
①住所が異なる同姓同名のお宅に届けてしまう
【正しいお届け先】桜木町の田中太郎さん
【誤って届けた先】桜井町の田中太郎さん
伝票には「桜木町」って書いてあるのに、配達員が「桜井町」と勝手に思い込んでしまったことが原因です。では、なぜ思い込んでしまうのか?よく行くお届け先は名前を見ただけで、その家の映像が配達員の脳内に再生される。配達員にはそんな習性があります。その配達員にとっては、お得意先(?)の「田中太郎さんといえば桜井町」と脳が勝手に判断し、住所が置き去りにされてしまうパターンです。京都の住所は長いので、住所より名前に目がいってしまいがちです。初心者を卒業し、配達に慣れてきた頃によくあるケースです。では次に、言い訳のしようがない問答無用のケースをご覧ください。
②住所も姓名も異なるお宅に届けてしまう
【正】武者小路町の田中太郎さん
【誤】聖天町の山本花子さん
論外の外。何ひとつ合っていませんね。ふつうに考えるとあり得ないミスですが、疲れが溜まってくる繁忙期シーズン中盤以降にありがちなんですよ。いずれにしても上記2つは、弁解の余地なしのアウトです。いっぽうで唯一「情状酌量の余地アリ」となるのが次のケースです。
【正】毘沙門町の田中太郎さん
【誤】毘沙門町の田中太郎さん
「え?同じやん?」となりますよね。でも立派な(?)誤配となりました。
つまり、
③「住所が同じで、かつ姓名も同じ」なのに誤配となった。
というケースです。
これは京都独特の住所とも関わる厄介な例で、2つのシチュエーションに分かれます。
③-a 同じ町内に2組の同姓同名さんが住んでいる
これ、意外とあるんですよね。本シリーズPART2でお話しした上京区の北町や相国寺門前町など1つの町内に数百軒の住宅があるような広い町では、神経衰弱ができるのでは?と思うくらい何組ものペアがありました。


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祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。
日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を
取得した目的は、難解な都市・京都を
わかりやすく伝えるためだとか。
地元広告代理店での勤務経験を活かし、
JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、
企業向けの広告講座や「ひみつの京都案内」
などのゲスト講師に招かれることも。
得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。
自称・元敏腕宅配ドライバーとして、
上京区の大路小路を知り尽くす。
夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、
祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。
著書
「西陣がわかれば日本がわかる」
「戦国時代がわかれば京都がわかる」
サンケイデザイン㈱専務取締役
|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事 / (一社)日本ペンクラブ会員|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ
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