公共の場での子育て。今時の親に物申す。

 子育ては難しいものである。最近はほめて育てるとか,自尊感情を損なわないようになどと言われる。我が子だからと,駄々をこねる子どもをきつく叱ったりしてもそうだが,たたくなどすれば,虐待として訴えられかねない。ほんとうにどうしたらと悩む親は多いだろう。自分の子どもの頃とは,社会状況は大きく変わったものだ。


 ちょっと昔ならこんな具合に子どもに言っていた。

「見とーみ,前のおばちゃん,笑うたはるえ」
「隣のおっちゃん,怒ったはるえ」

などと他人の目を通して子どもを育てていた。
身内ではない第三者を通して,子どもの行為を戒めていたのである。そうなると,他人の目を気にするということが子どもにも自然に入り込み,他人を意識するという視点が子どもに備わってきたのである。

昔の市電などはではそんなふうにいう親がいても,前のおばさんも何も言わなかったし,にっこり微笑んでいたものだが,今などはみんなそれぞれがスマートフォンや携帯をさわり,周りに無関心である。また,隣のおっちゃんなどと聞こえれば,言い合いや喧嘩にもなりかねない。

昔の電車などでは,子どもは車窓に向って目をやって座るというか,膝を背もたれにつかせながら風景を見ている。当然靴は隣の人の服を,座席を汚さぬようと親は靴を脱がせる。そんな時でも,「隣の人のべべ汚したらあかんやろ」,「他の人も座らはるやろ」と言いながらである。人の存在を意識させ,しかも子どもには子どもなりの気遣いをしつけるのである。その時,子ども足下には,玄関にでも置くように,脱いだ向きをそのままでなく,向きを変えて置く。靴の脱ぎ方,揃え方までとやかく言わずとも身に付けさせるのである。

他人を意識させることで,人としての在り方を身に付けさせたのであるが,今の親など,そんなことお構いなしで自分はスマートフォンをスクロールしている。親としての矜持など何処へ行ったものやら。今の中学生の親など,携帯がちょうど出だした頃の世代が親となってきているので,その辺りの扱いもまた今後大きく変わっていくだろうなと思われる。


京都の子育てで使う「折れ反れもできませんで」

 また,ちょっと大きくなってくると,きっちりと挨拶をさせなければならず,小学生の1・2年くらいなら,親が頭をコックリさせるような場面もありましたが,大きくなれば,そんなこともできず,「折れ反れもできませんで」と言って,相手に詫びるのである。

「折れ反れ」とは,前に頭を下げることを折るといい,その下げた頭をもとに戻すことを反るというのです。ゆえに,「折れ反れもできませんで」とは,挨拶もできませんでという意味合いとなる。

直接に挨拶もできないと言ってしまえば,自分の子育ての失敗を意味するとともに,子どもに恥をかかせることにもなる。ただ単なる「折れる,反れる」という行為自体を問題にすることで,挨拶を行為に変えてしまうのである。大人や青年になって挨拶もできないとは言えないし,それでいて親が詫びるのも変であるし,誰のせいでもない,こういった言い方をするのである。

 そして,最後は,訪問を終えると見送りである。京都の人々は,来客が角を曲がるなりして,見えなくなるところまで見送る。そして,来客は,曲がる角で後ろを振り返り,見送る家人に軽く会釈を,また送り手も軽く会釈をすることで,一連の見送りが終わる。

 その時,私が好きな挨拶がある。静原の方で聞いた言葉で,さようならと別れのあいさつだが,「お静かに」と帰り際に言われたことがある。静かとは何も起こらないことから,帰る道中が無事でありますように,波風が立たず平穏無事でありますようにと願う,祈る言葉なのである。だから何も特別に来客だけに対して言うだけでなく,家人に対しても,出かける際に,いってらっしゃいとは言わず,この「お静かに」と声を掛け,無事の帰宅を願うのである。


新しい京都へ

 今や公共交通機関の中でも,食べ物,大声,携帯,座込み,化粧とありとあらゆることを目にすると,家庭でどのような生活を送っているのだろうかと思ってしまう。公共という概念がなくなってきているようにも思う。公共という概念は,やはり他人を意識するということから始まるようにも思う。

京都の人々は,こうした概念を持って小さい頃から子どもを育んできた。それも子どもの成長とともに,何を理解させることかも共通理解をはかりながら,しかも,ある時は子どもや親の逃げ道もつくりながら,全体で育んできたように思う。

その強みを生かしながら,新しい京都に生まれ変わっていければと思う。

 

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西村 弘滋

京ことば研究家
京都市教育委員会 総合教育センター 総括首席指導主事

      
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