国立京都国際会館イベントホール

国立京都国際会館イベントホール

国立国際会館の建設地を宝ヶ池とする閣議決定が1959(昭和34)年9月に行われた際に付された条件が二つあった。
一つが交通基盤の整備であり、もう一つが国際会議場にふさわしい周辺環境の整備である。
前者については既に述べたが、後者はこの閣議決定を受け、矢継ぎ早に都市計画を決定している。

宝ヶ池周辺

宝ヶ池周辺

(出典:Google Earth)

まず、当時の高度経済成長の下で洛北方面への開発圧力が高まる中、国際会議場にふさわしい環境を保持するため、建設地を宝ヶ池とする閣議決定から2カ月後には、国際会館一帯を風致地区に指定する都市計画案を審議会に諮問した。
この都市計画案は、国際会館周辺の岩倉・静原・上高野において1,684ヘクタールもの広大な区域を風致地区に指定(上賀茂風致地区の追加指定)しようとするものであり、指定理由として「宝ヶ池公園の周辺、特に東山より望見せられる北部岩倉地区を郊外地及び国際会議場にふさわしい環境を保持し、俗悪な建築物や山膚の切取を防止するため」としている。
この指定面積は上京区と中京区を合わせた面積よりも広く、市街地だけでなく山林を含めて自然環境の豊かな環境と景観の形成を図ろうとする意気込みが感じられる。
この都市計画は翌年1月に告示され、これで都市計画規制の枠組みが固まった。

次に、2年後の1961(同36)年には都市基盤の整った市街地を形成するため、洛北第一地区の土地区画整理事業が都市計画決定され、5年後に事業決定された。
事業がスタートした年は国際会館が開館した年でもある。

さらに、国際会館が建設される宝ヶ池周辺は公園とする計画が進められ、国際会館建設工事中の1964(同39)年に「宝が池公園」が設置された。
その面積は、宝ヶ池や五山送り火の「妙」「法」を含む128.9ヘクタールにも及び、市内最大の広域公園となった。

かんがい用の溜池として江戸時代中期につくられ、江戸時代後期にほぼ現在の大きさになったとされる宝ヶ池と、その周辺の公園整備は、国際会館が北側隣接地に建設されることが決定してから施設整備が大幅に進み、子供の楽園(1964年)、菖蒲園(1971年)、憩の森(1974年)、桜の森(1977年)、北園(1978年)、野鳥の森(1992年)が次々と整備されていった。

宝が池公園

宝が池公園

最初に整備された子供の楽園はかつて競輪場であった。
この宝池競輪場は1949(同24)年12月に京都市により開始され、観客輸送のため同年から6年間、叡山電鉄の元田中―山端(現宝ヶ池)間で市電の乗り入れ運行が行われた。
しかし、高山市長は就任当初から競輪廃止の意向を強くもっており、市長3期目の1958(同33)年に全国に先駆けて市営競輪の廃止に踏み切り、子供の楽園として公園整備を行った。
当時の記録映像の京都ニュース(京都市広報課)は、『整備すすむ“宝池”周辺』のなかで「元競輪場は、『大人の地獄を子供の天国に』という市長の公約どおり子供の楽園に生まれ変わりました。」と謳っている。

子供の楽園

子供の楽園

宝ヶ池のある山の南斜面には「妙」と「法」の字がある。
「妙」が西山に、「法」が東山にあり、狐坂が二つを分けている。
狐坂の南には、2019年「宝が池公園運動施設体育館」がオープンし、これまでの球技場に加え、バスケ・バレー・フットサルなどもできる複合的なスポーツ広場として大きな期待が寄せられている。

宝が池公園運動施設

宝が池公園運動施設

松ヶ崎大黒天《妙円寺》

松ヶ崎大黒天《妙円寺》

※裏山が「法」

年表

西暦(昭和) 月  都市計画・公園・土地区画整理事業

1957(32)年11月……国際会館建設の閣議決定
1959(34)年9月……建設地を宝ヶ池とする閣議決定
同年11月……上賀茂風致地区の都市計画審議会への付議(昭和35年1月告示)
1961(36)年8月……洛北第一地区土地区画整理事業の都市計画決定(昭和41年3月事業決定/昭和55年11月換地処分)
1962(37)年11月……国際会館着工
1964(39)年5月……宝が池公園設置(128.9ヘクタール)
1966(41)年5月……国際会館開館(3月竣工)

参考文献
京都市市政史編さん委員会編 『京都市政史』第2巻、京都市、2012年
国立京都国際会館HP
京都市情報館HP
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この記事を書いたKLKライター

京都市文化財保存活用・施設整備アドバイザー
松田 彰

公益財団法人 京都市文化観光資源保護財団 アドバイザー 
京都大学工学部建築学科卒、同大学院修了
一級建築士

1957年生まれ
1982年4月から京都市勤務
2018年3月に京都市都市計画局建築技術・景観担当局長で退職
2018年4月から2023年3月まで京都市文化財保存活用・施設整備アドバイザー
2023年7月から現職

著書:「花街から史跡まで 散歩でハマる! 大人の京都探訪」(リーフ・パブリケーション)
   「いろいろ巡ろ! 京都の文化都市施設」(KLK新書)
共著:「京都から考える都市文化政策とまちづくり」(ミネルヴァ書房)
   「『京都の文化的景観』調査報告書」(京都市)

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松田 彰

公益財団法人 京都市文化観光資源保護財団 アドバイザー 
京都大学工学部建築学科卒、同大学院修了
一級建築士

1957年生まれ
1982年4月から京都市勤務
2018年3月に京都市都市計画局建築技術・景観担当局長で退職
2018年4月から2023年3月まで京都市文化財保存活用・施設整備アドバイザー
2023年7月から現職

著書:「花街から史跡まで 散歩でハマる! 大人の京都探訪」(リーフ・パブリケーション)
   「いろいろ巡ろ! 京都の文化都市施設」(KLK新書)
共著:「京都から考える都市文化政策とまちづくり」(ミネルヴァ書房)
   「『京都の文化的景観』調査報告書」(京都市)

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