
上ル下ルに翻弄される京都の宅配ドライバー part1
先日、本サイトに掲載された小林孝夫氏の記事「京都の住所はなぜ長い?」「郵便番号が分からない!~京都の“町”の不思議~」はおかげ様で多くの方にご覧いただきました。それだけ京都独特の住所に関心をお持ちの方が多いということですね。そこで柳の下の二匹目のドジョウをねらって、小林氏説を宅配ドライバーの視点で掘り下げ、京都の難解な住所を読み解いてみようというのが今回のテーマです。【編集部/吉川哲史】
どこまで上ルねん?
と、このように書くと「京都は『交差点+上ル下ル』で通じるさかいラクなんちゃうの?」と思われるでしょう。「千本通一条上ル」と書いてあれば、町名が書いてなくてもほぼ場所の見当がつきます。文字数も少ないから目にも優しいしね。その一方で「上ル下ル」でエライ目にあうこともあります。私の悲しき体験談を聞いてください。
ある日、「寺町通今出川上ル」とだけ書かれた荷物があり、地図で寺町今出川を起点に、視線をどんどん上にやっていきました。ところが、探せど探せど該当する家が見つかりません。ふつう「上ル下ル」といば1筋分、つまり次の道がくるまでの間です。たいていは100m、長くても200m、いや300mくらいかな。なので、ある程度上っても見つからないときは考えても仕方ないので、さっさとお届け先に電話するに限ります。が、この時はあいにく番号が書かれていませんでした。となると残る手はひとつ、地味~な現地調査となります。
一軒一軒の表札を見て回ることもありますが、メンドーなので私は聞き込み調査をしていました。配達先で「あの~つかぬことを伺いますが、このあたりに○○さんてお宅ご存じないですか?」ってね。でもこの時はなかなか有力な証言が得られず、困っていたら酒屋さんがあったので、ソッコーで暖簾をくぐりました。近隣事情に詳しい酒屋のおっちゃんから得た手掛かりとして3軒の候補が捜査線上にあがってきました。そうやって苦心の末に探し当てたお届け先は、なんと今出川から上ルこと約1,000mの鞍馬口通りの手前だったのでした。
この現実を目の当たりにしたときの私の脳内を再現してみましょう。
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これやったら「今出川上ル」やなしに「鞍馬口下ル」やろ!ナンボなんでも手ぇ抜きすぎやろ!ほな何かい?「御所南」エリアはステータス高いからゆうて御所の南はず~っと果てしなく「御所南」て言うんかい?違うやろ!どーしても「上ル」て言いたいんやったら「今出川上ル1,000m」て書いとけ!ア●、ボ●、カ●!!
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という都人にあるまじき品のないワードが爆竹のように炸裂していたのでした。これはかなりレアケースですが、「○○上ル200~300m」てのはけっこうあり苦労しましたね。できれば不動産広告みたいに「上ル○○m」とか「上ル徒歩2分」って書いてもらえると助かります。
上がった後が問題
前述のとおり、上京区の住所は「交差点+上ル下ル(西入東入)」でおおむね事足りるのですが、大通りとなるとそうもいかないことがあります。たとえば「堀川通今出川上ル」が目的地であれば、車は堀川通の西側に停車することになりますよね。でも配達先が東側だったら、向こう岸まで渡らなければなりません。といって堀川通は市内有数の道路幅を誇り、車もビュンビュン飛ばしてます。そこをビールの贈答品を2~3箱持って、えっちらおっちらと渡るのは、かなり勇気がいります。てゆうか、私がドライバーやったら間違いなくクラクション連打して「ア●ンダラ!ちゃんと横断歩道渡らんかい!」と怒鳴ってます。となると大人しく横断歩道まで迂回し、信号待ちをすることになります。しかも往復。このようなロスがあると時間だけでなく、精神的にくたびれてペースがガタ落ちになります。このケースでは、上ル下ル+町名まで書かれていると、通りのどちら側かが判別します。一部例外はありますが、大通りの場合は道を挟んで町名が分かれるケースが多いですからね。このような例は堀川通の他にも千本通、烏丸通、河原町通、今出川通、丸太町通で起こり得ます。
ところで、こんな配達員の苦労を知ってか知らずか、堀川通は今出川を下ったとたんに優しい住所表記になります。今出川通から御池通までの堀川通には、川を挟んだ東側にバイパスのような道があります。ここも堀川通ですが、この場合は「東堀川通」と書かれます。したがって、何も書かれていない「無印」の堀川は西堀川と解釈してまず間違いありません。このように上ル下ルだけで表記する場合は、そこに「西側」「東側」という2文字を足してもらえると大変ありがたいです。メンドーだったら「西」「東」だけでも救われます。
さて、今回は「上ル下ル」を中心に京都独特の住所と配達現場の実際を語りましたが、ナンギな住所はまだまだあり、一回では書き尽くせませんでした。なので、いったんここで前編の了とし、近々に後編を綴りたいと思います。
(編集部/吉川哲史)
上京区精密住宅地図/京都吉田地図株式会社


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「西陣がわかれば日本がわかる」という大胆な著書を上梓した京都と西陣をこよなく愛する生粋の京都人。
日本語検定一級、漢検(日本漢字能力検定)準一級を取得した目的は、難解な都市・京都をわかりやすく伝えるためだとか。
地元広告代理店での勤務経験を活かし、JR東海ツアーの観光ガイドや同志社大学イベント講座、企業向けの広告講座、オンラインイベント「ひみつの京都案内」などのゲスト講師に招かれることも。
得意ジャンルは歴史(特に戦国時代)と西陣エリア。自称・元敏腕宅配ドライバーとして、上京区の大路小路を知り尽くす。夏になると祇園祭に想いを馳せるとともに、祭の深奥さに迷宮をさまようのが恒例。
サンケイデザイン㈱専務取締役
|八坂神社中御座 三若神輿会 幹事|戦国/西陣/祇園祭/紅葉/パン/スタバ
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