7月28日夕刻からの「後の神輿洗い」をもって祇園祭の大きな行事が終わります。まだ祇園祭は終わっていないとはいうもののやはり一抹の寂しさを感じます。
今年は後祭りの山鉾巡行が復活してちょうど10年目でした。
私が三若神輿会に入った30年ほど前は山鉾が合同巡行でしたので、世間では7月17日の巡行が終わると「あー、祇園祭も終わりましたね」と平然と言われていた時代でした。
そんな時代でも河原町商店街のアーケードの祇園祭の幔幕はこの神輿洗の7月28日まで掛けられていたと記憶しています。
当時から河原町商店街役員の皆さまがいかに見識高く祇園祭を大切にしてこられてきたかがよくわかります。

粽の楽しみ

そして7月31日山鉾、神輿、花笠や清々講社役員をはじめとする関係団体の役員が一斉に集う境内末社の疫神社 夏越祭で今年の祇園祭はいよいよ幕を閉じます。
この時に参列者がくぐる茅輪が転じて、祇園祭には欠かせない粽になったことはよく知られるところです。
この粽はもちろん食べられません。

それぞれの山鉾や八坂神社や神輿会(三若のみ)がご利益を謳って販売(授与)している粽を見てまわったり買ったり(授かったり)するのも宵山の楽しみの一つです。
鈴鹿山や黒主山は盗難除け、孟宗山は親孝行、木賊山は迷子除けなど、疫病除け以外にも一風かわったご利益があってなかなか面白いものがあります。
いずれもその山や鉾の謂れやご神体にまつわるご利益なので、そのご利益のルーツを知ると祇園祭をさらに楽しめると思います。掛け紙のデザインもシンプルなものから凝ったものまでそれぞれの山鉾の個性がでていますね。

KLK編集部にもたくさんの粽が集まりました。
大船鉾の粽はなんと10束×5本重ねの特大粽。

巡行順が決まった後、前と後ろの山鉾が交換をされる特別な粽なのですが三若神輿会にも頂戴いたしました。もちろん一般には売られて(授与されて)いない超レアものです。

粽の危機

一番人気の粽は長刀鉾で5万本(実際はそれ以上かもしれません)と聞いたことがありますが、全体では何十万本もの粽がこの祇園祭の期間に配られる(授与される)ことになります。
その粽がいま危機に立っています。

今年は後祭の宵山でも宵を待たずに売切れというご町内が多くありました。
7月22日の宵山(宵山と云うのは巡行の前日だけではありません)を廻った私も、黒主山では「本日分はもうありません。明日は9時からです。でも11時頃にはなくなるかも・・・」と言われ鈴鹿山では「明日は日中の授与はなく18時からお並びいただきます」と言われました。
どうやらどこの山鉾も粽を調達しにくくなってきているようです。

いくつかのご町内で親しい方からお聞かせいただいたお話を私がまとめると

(1)4年振りだったから

粽は手作りで原材料の調達から仕上げまでほぼ1年仕事。
1年後の祇園祭になんらかの行動制限がかかるかもしれず粽の生産数を計りきれなかった去年の秋からでは十分な数量や体制を確保できなかった。

(2)原材料産地では

粽の主原料となる笹(チマキザサ)は左京区の鞍馬や大原や花背が知られますが、これら産地では生態系の変動により笹が枯死して十分な量が採れなくなってきたこと。

(3)獣害

生態系の変化とも関連するが、鹿が増えたことによりただでさえ数の減ったチマキザサを鹿が食べてさらに減らすという「食害」が発生している。

(4)農家の高齢化

粽づくりは北区の深泥池(みどろがいけ)近辺の農家やその周辺にお住まいの方々が手仕事で代々担ってこられた。
農家をやめられたり、高齢化などで担い手や後継者が少なくなってきている。

今年に限っては(1)の理由も大きかったように思いますが、むしろ根本的な問題は(2)(3)(4)です。
その結果、午前中から「チマキ、本日分はなくなりました」ということになるのです。
また和菓子の粽(こちらは食べられる方の粽です)でも使われている香り高い現地の笹が取れなくなってきていることで祇園祭でも外国産の粽を使わざるならなくなっていると聞きます。

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この記事を書いたKLKライター

三若神輿会幹事長
吉川 忠男

 
三若神輿会幹事長として、八坂神社中御座の神輿の指揮を執る。
神様も、観る人も、担ぐ人も楽しめる神輿を理想とする。
知られざる京都を広く発信すべく「伝えたい京都、知りたい京都 kyotolove.kyoto」を主宰。編集長。
サンケイデザイン代表取締役。

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