この季節、当館でも二本の古い大きなソメイヨシノがお客様を出迎え、お客様には大変喜んでいただいています。私もこの桜を幼い頃から何十年と見ているのですが、毎年新鮮な感動を覚えます。先人たちが桜に人生を投影してきた思いを、年を重ねる毎に共感できるようになってきたのかもしれません。
今回は、ご近所の常照寺さんから原谷苑、仁和寺、嵯峨野・佐野邸へ続く「私の桜街道」をご紹介いたします。
常照寺・花供養
4月の第2日曜日は鷹峯の常照寺さんで二代目吉野太夫を偲んだ供養が行われます。
この日は、島原から太夫さんがお目見えされ、島原太夫の道中があります。源光庵から常照寺まで、禿(かむろ)・大傘持ち・女中たちを従え高下駄でしゃなりしゃなり歩く太夫の姿は映画のワンシーンのようで一度は見ていただきたい行事です。
常照寺さんには、100本を数える桜が島原太夫のはかない人生と相まって華やかさの中に、もの悲しさを感じさせます。二代目島原太夫を身請けした灰屋紹益の句「都をば花なき里となしにけり吉野の死出の山にうつして」の句がその物語を語っています。
桜のための苑「原谷苑」
市中のソメイヨシノ盛りが過ぎる頃ご案内するのが金閣寺の北西・原谷の山林を開墾されて造られた紅枝垂れの桜苑「原谷苑」です。一年でこの時期だけ開苑されるこの苑には、240本あまりの桜が花を咲かせます。雪柳と桜と青空のコントラストは見事で、この時期のために丹精込められた桜は、降り注ぐように咲き、市中のものとは一味違うファンタジックな趣を感じさせます。
ここに来ていつも感心するのは、その土の柔らかさです。足元から伝わる手入れされた土壌からは、主の桜への惜しみない愛情を感じられる場所でもあります。
御室仁和寺の桜
原谷苑を南へ山道を抜けると世界遺産でもある御室・仁和寺へ抜けます。ここでは、御室桜と呼ばれる気品ある八重の桜がぽってりと咲き誇ります。市中のソメイヨシノが葉桜となる頃、ここでは盛りを迎えます。背丈の短い御室桜は花(鼻)が短いことから「お多福桜」という面白い愛称もあります。
桜守り、佐野藤右衛門さんの桜
仁和寺から嵯峨野へ続くきぬかけの道を西へ進むと日本を代表する桜守・佐野藤右衛門さんのお宅があります。代々続く桜守・佐野藤右衛門さん円山公園、平安神宮、迎賓館の桜など佐野さんが監修されています。
これが私のお薦めの桜街道です。桜を眺めていますと「綺麗」や「美しい」だけでは言い尽くせない、桜好き日本人の心情を感じてしまいます。
※2019年の情報です。