『僕は京都の銘竹問屋(後編)』Episode_4

 

誰が竹を買っているのか?フツーに考えて、『ありえない商売』です。と、前回の冒頭に書きながら、その伏線が未回収になっています。
前回のEpisode-3『僕は京都の銘竹問屋【前編】』では、銘竹の種類・京都の風土が良材の竹を産む事・京都の技術が高品位な竹材を作り出す事までを書いたものの、用途の説明ができていなくて、誰が使うのかが解決できてないので、『ありえない商売』のままで終わっています。唐突にぶち込んだエジソンネタに文字数を使いすぎたのが原因なのですが。

 さて、「誰が買うのか?」。ここからが、僕が銘竹問屋であることの本題です。

 友人に自分の仕事を説明しようとすると、原稿用紙10枚を書く位の手間を要します。本を買ったり、服を買ったりすることは、日常でよくあることでしょうが、普段の生活で竹を買う必要に迫られることがないから、竹を売るということが理解しづらいのでしょう。もっとも、ツ●ヤやユ●クロは身近にあるのに、竹を買おうにも竹屋を発見すること自体から至難の業、ではありますが。


 竹を買ってまで使うことは思い浮かばないにしろ、実は様々な場面で竹は使われています。
 ホテル・旅館・飲食店・物販店。そういった場所で見かけられたことがあるのではないでしょうか?
玄関に沿って緩い曲線の竹が張り並べられた【駒寄(犬矢来)】。暖簾をくぐる時、その暖簾をかける棒が【竹】路地や中庭を囲う【竹垣】。京都の建仁寺というお寺が発祥で、割った竹をタテに並べて張った【建仁寺垣】という竹垣を見かけることは多いかも。庭の仕切りの竹垣なら、光悦寺発祥の【光悦寺垣】がよく目に入るかもしれません。(他、金閣寺垣とか銀閣寺垣とか、お寺がオリジナルで作ったスタイルが、そのまま竹垣にネーミングされています。)
中に入ると、飾り柱や壁のワンポイントに立っている【竹】。壁を丸く空けて、タテヨコの格子に組んだ【竹窓】。上を見上げると、天井一面に敷き詰められた【竹】。矢形や市松に編んだ【網代】。網代は、削った竹や木を編んで、一枚の板にしたものです。
 そろそろ、記憶の奥底でスルーしていた映像が見えてきましたか?なんとなく、白色や茶色や模様の入った竹が眼前に現れてきた頃、でしょうか?
そう、それ!!それ、全て竹!!!です。

 和の建築や京町家・茶室に限らず、モダンなショップでも竹が使われています。

要は、“建築の内部装飾や外装に使う竹”、を売るのが僕の仕事。銘竹を含む竹材だけでなく、竹垣や網代天井、簾や夏障子、照明器具や竹籠といった竹製品もウチの商材です。

ようやく、前編の伏線の回収までたどりつきました。
誰が買うのか? Answerは、建築家・建築会社・建築材料会社。

 実際には、建築以外の用途もあるので、建築関係に限られているわけではないのですが、そこまで説明しようとすると、原稿用紙18枚位になりかねないので、とりあえずこの場では、Answerは上記に限定!

 この“銘竹問屋”という業態。ストックやオーダーメイドの商品を、全国あるいは海外の案件に対して出荷するという商売、なのです。竹の生産地や竹製品・竹工芸品の製造地は、それぞれの特性に応じて全国に在るのですが、それらを集積する銘竹問屋という形態があまり存在しない。非常にレアな商売です。

 「京都らしいお商売ですね」と度々言っていただき、「京都らしいってなんだろう?」と嵐山の竹林に行って熟考(Episode 2)もしてみたのですが、京都の生活に馴染み続けてきた素材が竹であることが所以なのかもしれません。京町家の部材であったり、社寺の垣根であったり、生け花や茶の湯の道具であったり。京都の文化的価値を支える多くのモノの中の一つが竹であるのかも。 

バックナンバーで、「京都は目利きの文化」というフレーズを用いましたが、銘竹問屋四代目としての自分の仕事を全うするには、竹に関する目利き、つまり、要望されるグレードの商品を適所に当てはめられるだけの感性を鍛えていく事。それも、仕事の一つであるように思います。

さて、次回の予告。プロフィールにもあるように「僕はギタリスト」なので、Episode 5では、竹の音をテーマにかいてみよう!

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この記事を書いたライター

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

|銘竹問屋四代目・ギタリスト|竹/明智藪/嵐山/祇園祭/ギター