僕は、竹屋です。どういう仕事なのかは、また別の回で詳しく書くとして、簡単に言えば、竹を売るという家業の四代目。竹を買いに来たお客さんが、竹屋の主人に向かって「私は竹が大好きで!」と言われることは至極当然なことなのですが、どうもピンとこない。「俺って、竹が好きなの?かぁ??」と。
 
 もちろんプロなので、竹のことは、それ相応に知ってはいます。
 タケと竹の仲間のササ。これを合わせると、日本には600種程(※諸説あり)あり、その中でも、有用なタケとされているのが、孟宗竹(モウソウチク)と真竹(マダケ)と淡竹(ハチク)。筍にして美味しいのが孟宗竹で、江戸時代に渡来してきた品種。真竹は日本古来の品種で、縄文時代の出土品には、すでに道具として使われていた痕跡もあるらしい。

孟宗竹と真竹

孟宗竹と真竹

真竹の”青竹”と”白竹”

真竹の”青竹”と”白竹”

 竹は、木と違って、年々大きくなることがなく、筍が出てからの2~3か月で生長を終えます。それ以降は太くなることもなく、背が伸びることもなく。「筍」という漢字。タケノコは“一旬(十日間)で竹になる”事が語源。真竹が一晩で121㎝伸びた記録もあるとか。驚異的な生長のからくりは、節間が一斉に開くから。提灯を広げるのと同じ理屈です。

友人達から言われるのが、「毎年毎年、ボンボン生えてくる竹を売ってるだけやし、楽やなぁ~」と。確かに、毎年ボンボン生えてくる、のですが。。。

 竹材として、商品となる竹は伐採の時期も限られています。水分を最も吸い上げていない11月から12月。内装材(天井の格子とか飾りの柱とか)やアート作品(竹籠やオブジェなど)には、切ったままの青竹ではなく、それを製竹しなくては使えません。まずは、油抜きの加工。弱い火で表面を温め、内部にある油を浮き出させ、拭き取る。そして、1ケ月ほど日光に当て、表面を白くする。その後に、再度、節々を温め、歪みを矯正する工程があって、ようやく竹材になります。原材料の性質に加えて、この工程での技術力によって、仕上がりは大きく変わり、竹材としての優劣がついてきます。

なので・・・1本1本に、結構な時間と手間が、実は必要なのです。毎年ボンボン生えているようですが。。。 

それじゃ、京都だからこその竹って、何なんだろう?

 日本中に竹林や竹の産業はあるものの、京都は、竹の本場といわれています。真竹で言えば、盆地である地形と京都の土壌、そして蒸し暑い夏と底冷えする冬の気候といった自然条件が、堅くて艶のある良質の竹の生育に適していると言われているのですが、僕は、どうもそれだけじゃないように思っています。

  竹は姿を変え、様々な製品になります。

例えば「犬矢来」。平らなモノサシ状にした竹を、自然のシナリだけで曲線をつけて、釘で打ち付けたもの。京都の町家の玄関先の格子の下によくある、、、アレ。「馬が家を蹴る」とか「犬がオ●ッコをかける」ことから、家の壁を守るためのもの。今となっては、馬が京都の街を歩く光景は、まず見かけないのですが、これがあることで、町家が京町家らしくなる。ある意味、「犬矢来」は京都らしい光景をつくる装置、みたいなものなのかも。(まっ、犬が歩く光景は、常日頃見かけるので、その点では、犬矢来は本来の機能を発揮しているのかもしれませんが。)

祇園の犬矢来

祇園の犬矢来

 そのほかにも、竹ヒゴにして糸で編んだ「簾」や竹や竹枝で作った「竹垣」、竹を黒縄で編んだ「井戸の蓋」等々。竹が細すぎても太すぎても「どこかチグハグ」と思われ、こだわりの中で作られたものは、「スッキリしてるなぁ」と喜ばれる。遮蔽の機能を満たしていることに加えて、京都らしい景色にあてはまる役割を果たしているように感じます。

 ということは・・・京都だからこその竹って、こういうこと、かなぁ?
 機能性と美的感覚・気品。「目利きの文化」といわれる京都で期待される事に応え続けてきたことが、技術を高め、品質を高めてきた。それぞれの工程の職人さんたちからは、良質なモノを作るためのプライドが感じられます。
 
 ここまで書いて、今、気付きました。「京都らしい」って言葉を散々使いながら今更ですが、『京都らしいって、何?』と。「竹が好きっ」なのかどうかわからないけど、竹屋という一風変わった商売の視点で見る京都らしさ、を考えていけば、そのうち「竹が好きっ」になるのかも?
次回には、そのあたりのことを書いてみることにしよう!

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この記事を書いたKLKライター

銘竹問屋四代目・ギタリスト
利田 淳司

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

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利田 淳司

 
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関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

|銘竹問屋四代目・ギタリスト|竹/明智藪/嵐山/祇園祭/ギター

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