「本木賊張り(ほんとくさばり)」と称される伝統的な塀の様式があります。これは、半分に割った竹をタテに並べて張り詰めて塀にするもので、節が出張り、直径は一様ではない複雑な形の竹同士を隙間なく並べる所に真骨頂があります。
隣り合う竹の側面を削って凸と凹を交互に作り出し、はめ込んで、竹と竹を密着させるという技法であるのですが、このカタチを簡単に表現できる言葉を探し、あれこれ思いめぐらせてみたところ・・・見つけました!
指を交互に絡ませて手を繋ぐ「恋人繋ぎ」。
僕は銘竹問屋です。なので、モノづくりの立場ではないのですが、これを説明する為には自力で作ってみるべきかも?と一念発起し、技術のある職人さんの仕事から見聞きした事をなぞりながらチャレンジしてみました。
では、「不器用な銘竹問屋による木賊張り製作レポート」です。
まずは、竹を垂直方向に切って半円にし、隣り合わせに並べます。当然、節が当たり、それ以上は近づきません。 便宜上、この2本の竹のうち、左にあるのを「Aくん」、右にあるのを「Bさん」と名付けます。
さて、細工の始まりです。並べたAくんとBさんの間にノミを置き、スーッとなぞっていきます。これにより、相手側の形状が書き写されます。水墨画を思わせるような黒い線が隣に来る竹の形。竹の複雑な形をこの線が描いています。
ここから、竹の長さを5等分した線を書き加え、Aくんの右側面から2か所を、Bさんの左側面は3か所を、水墨画の黒線に沿うように取り除き、相手側の凸と重なるように凹を形作っていきます。目指すべき所は、この2本をはめ込み、隙間なく密着させる事。AくんとBさんに恋人繋ぎをさせる事がミッションです。
いよいよ、プロの技の見せ所!(いや、初めての経験なのですが。)この黒い線に忠実に小刀(ナイフ)で削っていく事が、恋人繋ぎへの道です。
とにかくは、線を超えない程度に、Aくんの2か所とBさんの3ヶ所を、ざっくりと取り除いてみます。当然隙間だらけ。初対面の時の距離感からは近づいたものの、残念ながら、まだまだ、AくんとBさんは親密な間柄には至っていません。
そして、精度を高めていきます。ここが近寄らないから、この反対側を削ればいいのだな。角に僅かでも丸みが残ると詰まらないから、しっかり直角にしないと。こっちがぶつかるから、あっちを削り、あっちを削れば、そっちがぶつかる。噛み合わせを調整する歯医者さんのごとく、AくんとBさんを交互に削る事をひたすら繰り返し、全体がくっつきだし、あと少しで完成。
と思いきや、「あっ、削りすぎた!」隙間が大きくなり、AくんとBさんに、再び距離ができました。こうなれば、全部を深く削るしかない!もはや黒い線の意味が無くなり始めながらも、気を取り直して、TRY AGAIN。Aくんを削ったら、Bさんも少し削って、っと。恋人繋ぎまであと少し!
ん?なんでここが詰まらない?節の所の、この1ミリの削り残しが邪魔しているから?犯人はお前だっ!
行ったり来たりの果てに、遂に恋人繋ぎ。竹同士は密着しました。実感した事は、髪の毛1本ほどの削り具合の差が密着度を左右する、という事です。
半割の竹を並べる竹塀の別の工法として、両サイドを垂直方向にカンナで削り、側面を平面に加工する事で接しさせる形式もありますが、この場合、手打ちの和釘を正面から打つことで1枚ずつを固定させているため、釘が見えています。
本木賊張りの特徴は、釘が見えない事。取り残した凸の部分に釘を打ち、裏桟に固定するのですが、その部分は相手側の凹の部分がかぶさり隠れるように計算されています。隣り合う竹同士がピッタリと寄り添い、互いに押さえあう事で、舞台裏を隠しながらも固定されるのです。これを次々に繰り返し、何枚もの竹を繋ぎ合わせて、塀の巾にしていくのです。上賀茂や南禅寺辺りの散策をしていると、旧家の塀で使われているのを見かける事もあるかもしれません。
伝え聞いた所では、熟練の職人さんが作ったものは、裏側に雨を通さないほどに隙間が無いそうです。このような技法を生み出した人が居て、その技が受け継がれ、実用の為の塀として竹が役割を果たしている事を想うと、日本の伝統技術の存在価値を知らされます。
何はともあれ、AくんはBさんとの恋人繋ぎを成就できて、よかった。ミッション完了。