『光秀と竹~明智の謎~』僕は京都の銘竹問屋  Episode-7

KLK『伝えたい京都、知りたい京都』の明智光秀スペシャル企画に参戦するべく、ただし編集部がなぜ明智光秀企画を始めだしたのかは理解できないまま、今回は「明智光秀と竹の相関関係」を書いてみます。
 

伝説の血竹 光秀のタタリのせい?

 “山崎の戦い“に敗れ、坂本へ逃げる途中、落ち武者狩りの百姓に竹槍で突かれた光秀が絶命したのが伏見区小栗栖の竹藪。
 この、光秀最後の場所である小栗栖の竹藪は「明智薮」と呼ばれ、現在では史跡としての石碑も立てられています。

 伝説によると、「この竹やぶから緑にまじって赤い枝を付けた竹が無数に生えた」とか、「血の色の斑点のある竹がでて、血竹といわれ、手にふれようとする人はいなかった」とか。また、「光秀が竹槍をぬいた拍子に飛び散った鮮血と内臓が飛び散り、その怨念が周辺の竹を腐らせた」という逸話もあり、光秀の祟りに、よほど畏れがあったのでしょう。
現代でさえ鬱蒼とした竹藪周辺を歩くと薄気味悪い場面もあるでしょうが、当時の人々からすれば、怨念のある竹藪を通る怖さは相当なものでしょうし、「竹から血がでてるんジャねえ???」と腰を抜かし、「血竹じゃ~祟りじゃ~」と大騒ぎになった光景も目に浮かびます。
きっとYAHOO NEWSよりも速く噂は駆け巡り、もしくは怖いもの見たさの見物人で、i-phone新機種発売日のapple storeなみの行列ができたかもしれません。(まっ、そんなことはありそうにない、ですが。)

 竹屋的にこの超常現象を考察すると・・・
竹から血がでるはずは、絶対にない。だって、竹には血が通っていないんだもの。

 

血竹の正体は、シミ竹?

 竹屋的には、この、人々にサプライズを仕掛けた竹は、おそらくは【シミ竹】と呼ばれる竹の事では?という想像が働きます。
沢山ある竹の品種のうち、日本固有の竹で、最も用途が多岐にわたるのがマダケ。京都の風土・気候・土壌は良質のマダケの生育に最適とされています。昔の京都なら、マダケの竹藪は至る所にあったはず。

シミ竹

120年に1度しか咲かない竹の花?

このマダケという種族は、120年に一度だけ花を咲かせます。白い綺麗な花だそうです。それは、全国で一斉に開花をし、そして、開花後は全てのマダケが枯れます。
もちろん、1本1本の竹は10年もすれば枯れているのですが、春には地下茎から竹が生まれ、順番に世代交代をしながら、竹藪は休むことなく生き続けています。それが、開花後はマダケ藪が一旦休止する。そして、細い竹から回復し始め、徐々に元の竹藪に戻っていく、ということを120年のサイクルで繰り返しています。開花後の時期には主要商品であるマダケが生産地から消える、という恐ろしい事態になります。
120年というライフサイクルの中の老齢期。身体があちこち軋みだす人間の人生後半期と同様、マダケも弱りだし、病菌が寄生し、竹の幹の色が一部変色する。その竹、つまり、マダケの一部に茶褐色のシミが出たものが【シミ竹】であり、茶道具などで重んじられる銘竹となります。

ウチの先代と親交があった数寄者の小森松菴さんの著書の中で「明智薮とシミ竹」の件が書かれているのですが、要約すると、
『シミ竹の茶杓を残した古田織部が、大坂冬の陣の時、敵の矢玉が飛んでくる最中に、竹林で見つけた景色のおもしろい“良い竹”にみとれ、しきりに竹をながめていた。私は、その竹はまさしくシミ竹だと思う。光秀の死後、数年を経ずマダケの竹林にシミ竹が出たという事は、百二十年周期をさかのぼって、天正の頃にシミ竹が出るのは不思議ではない。(出典:「茶杓」小森松菴著・六耀社刊)』と、推察されています。

写真のように、白竹の表面にあるのは濃淡持ち合せた茶褐色の趣ある模様なのですが、これが藪の中の緑の竹なら、色合いも違って見え、表面にあるのはドス黒い血のような跡。
光秀の祟りである血竹の正体は、マダケの開花周期の中で現れる“シミ竹”。これで、明智薮の謎は解決しました。

ところで、今回のタイトルに付随しているのは「~明智の謎~」。僕は「~明智薮の謎~」とは、書いてはいません。
「明智の謎」。実はそれも先程解明しました。
今年来る麒麟とは、明智光秀のことだったのか!!!エリカさま騒動の時も、サファリパークか何かのドラマだろう、と思っていましたが、かの有名な大河の主役だったとは!!
ようやく謎がとけました。編集部が明智光秀企画を唐突に始めた理由が。

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この記事を書いたライター

 
1967年京都市生まれ。
関西学院大学法学部卒。
1915年創業の銘竹問屋・(有)竹平商店4代目、代表取締役。
NHK「BEGIN JAPANOLOGY」「美の壺」などのメディアへの出演や「第8回世界竹会議」の開催組織委員・「日本人の忘れ物知恵会議」のパネラー等を務め、日本の銘竹の美を海外・国内に向け発信する活動を行っている。

|銘竹問屋四代目・ギタリスト|竹/明智藪/嵐山/祇園祭/ギター