刃物は、包丁として料理にも使われるし、刀として人をも傷つける魔物でもある。
幼少の頃、包丁で料理している母親に近づき、危ないと叱責された記憶がある。
映画やチャンバラ時代劇で、悪者が成敗され、また決闘や合戦場面で多くの人々が血を吹き出しながら倒れていく姿を何度も見てきた。
刃物の存在が、恐怖の対象になってきたことは否めない。
知らず知らずに刃物は危ない、怖いものとして近寄りがたい存在となっていた。
それが次第に鉛筆削りやハサミで刃物に親しみを覚えてきたのである。
時が移り、京都の歴史を調べ神社仏閣に赴いて、奉納された名刀の数々を知ることとなった。
刀には、悪い縁を切り良い縁を切り開く霊験あらたかな物としてのイメージがあり、病気平癒の祈願を込めて刀を打ち終えたら病気が治ったとも言われている。
祇園祭の長刀は、疫病を吸寄せ、町を浄化する事で知られている。
刀は別格な刃物であり、武士道では魂であり神格化されてきた。
多くの武将たちが競って神社仏閣に自分の愛刀を奉納したのである。
「刀剣乱舞」と言う時代劇マンガやアニメを多くの女性が食い入るように読み、戦国武将の愛刀に興味を持ち、京都を訪れる刀剣女子が増えてきている。
そこで、多くの人々を魅了する日本刀を所蔵する神社仏閣をめぐってみた。
下記4つの神社のご朱印は、各神社で購入したものを活用した。
1.建勲神社
京都市の北方、大徳寺の前方・金閣寺の東方に小高い船岡山がランドマークとしてある。
その山というか岡の頂上東側に建勲神社が鎮座している。
明治2年織田信長を祀る神社として創建され、国家に対しての功績があったので明治天皇から信長がさずかった称号が、「建勲」である。
「けんくん」、「たけいさお」とも言われ地元では「けんくんさん」と称されている。
船岡山は、信長公の霊地なのである。
神社には信長が今川義元を討ち取って奪った名刀・義元左文字(宗三左文字)重要文化財が所蔵されている。
明治時代に徳川家から寄進され、現在は京都国立博物館に保存されているので、押形がある。
また、2018年に注目を集めたのが、信長愛刀・薬研藤四郎の再現刀である。
公開されたとき、多くの若い女性やアベックで賑わった。
本能寺の変後の行方がわからない刀である。
刀の銘は、明応の政変で武将畠山政長が切腹し自害しようとした時、自分の腹に刀が刺さらずに、投げ捨てたところ近くの薬研(生薬を粉末にする器具)を貫いたと言う言い伝えによる。
2.北野天満宮
宝物殿に太刀銘「安綱」(重要文化財)を所蔵している。
「太刀鬼切丸」別名「髭切」と言う。平安時代中期の武将・源頼光の四天王の一人・渡辺綱が一条戻り橋を通りかかった。
一人で歩く美女を発見し、家まで送ろうしたところ女性は鬼に姿を変え渡辺綱を捕らえて上空に飛び立った。
北野天満宮社殿の上空に差し掛かったとき、渡辺綱がこの太刀で鬼の腕を切り落とした。
命が助かったお礼に渡辺綱が寄進した燈籠が本殿前に残っている。
宝物館は有料であるが、金沢前田家が多くの刀剣を奉納しており、刀剣愛好家には見逃せない逸品が鞘と共に鑑賞できる。
3.大覚寺
正寝殿の剣璽の間で、南北朝の講和が行われ、三種の神器の受け渡しが行われた。
霊宝館には「薄緑太刀」別名膝丸(重要文化財)を所蔵している。
人気の髭丸と兄弟刀であるが、現在は京都国立博物館に寄託されている。
「薄緑(膝丸)太刀」には有名な逸話がある。
源頼光が病で伏せていたとき、身長が約2.1mの怪僧が頼光を縄で搦め捕ろうとした。
「薄緑太刀」で怪僧を斬りつけると、即座に逃亡した。
翌日、頼光四天王を率いた頼光は、怪僧を捕らえるべく血痕をたどっていった。
すると北野神社(上品蓮台寺と言う説もある)の裏手の塚で、全長約1.2mの巨大な蜘蛛を発見した。
頼光らは巨大な蜘蛛を鉄串に刺し河原に晒したと伝わるので「蜘蛛切丸」とも称される。
4.粟田神社
東海道が通る交通の要所にあり、室町時代ごろまで粟田口には刀鍛冶がたくさん住んでいた。
平安時代三条宗近祇園祭の長刀鉾の上の長刀は、三条宗近作が始まりである。
2020年に刀剣の宝物館がオープンし、太刀・小刀・脇差が鑑賞できる。
境内には鍛冶神社があり、国宝・太刀三条宗近(名物 三日月宗近)の作者として知られる三条宗近と、平野藤四郎、厚藤四郎など数々の名刀を生んだ粟田口吉光を祀っている。
境内の北、三条通から参道が延びる相槌稲荷神社がある。
三条宗近の鍛冶を手伝った狐を祀った神社である。
5.本能寺
明智光秀シリーズ
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宝物館「大寶殿」には信長公太刀・伝三条宗近と大太刀無銘(伝森蘭丸所用)などが展示されている。
6.豊国神社
豊臣家の聖地 宝物館に秀吉の遺愛の品々が展示されている。
宝物の一つに「名物骨喰藤四郎」を所蔵している。
切る真似だけで骨まで砕くという伝統をもつ名刀という。
現在は京都国立博物館に寄託されている。
短刀銘 国俊(名物 愛染国俊)(重要文化財)
7.藤森神社
王城守護、勝運の神として信仰され、多くの武具が奉納された。
五条国永の作と伝わる太刀・鶴丸国永などが宝物館で無料にて見られる。
神社ゆかりの刀剣や武具を通年公開されている。
三条宗近の宝剣や、太刀・三日月宗近の写し刀を所蔵している。
8.二条城休憩所
二条城の無料休憩所内に6ふりの刀が展示されている。
現代刀であり刀身にあまり傷がなく、鑑賞にも適している。
刀全体の像や地鉄の模様・刀文が近くで比較しながら鑑賞できる。
虎徹、孫六兼元、笠間一貫斎繫継、村正、正宗、来國俊の6ふりである。
9.霊山歴史館
幕末維新ミュージアムは京都東山にあり、維新の志士や幕府側諸侯らの資料を総合的に収集展示している。
近藤勇の刀・阿州吉川六郎源祐芳と土方歳三の刀・大和守源秀圀が見られる。
また 近江屋で坂本龍馬を斬った脇差も見られ、刃が欠けている。
10.刀にまつわる言葉
私たちは、普段何気なく使っている言葉の中に、日本刀が由来になっていることわざがある。
日本語とは何と面白いものだ。
1.伝家の宝刀…切り札 いざという時にだけ繰り出す、とっておきの者や手段
2.相槌を打つ…相手の話しに調子を合わせること
3.切羽詰まる…窮地に追い詰められた時、為す術がなくなること
4.単刀直入…遠回しではなく前置きなしに、いきなり本題には入ること
5.諸刃の剣…一方では非常に役立つが、他方では大きな害を与える危険性
6.そりが合わない…気が合わないこと 反語はそりが合う
7.両刀使い…全く異なる二つの物事をこなすことができる人のこと
8.付け焼き刃…その場凌ぎの知識を身につけること
9.どすの利いた声…凄みを利かせた声のこと
10.元の鞘に収まる…再び元の関係に戻ること
11.急刃凌ぎ…その場凌ぎの工夫で状況を切り抜けること
12.受け太刀…口論で一方的にまくしたてられ守りに入ること
13.ペンは剣よりも強し…言論にはかなわないこと
14.大上段に振りかぶる…上から目線の態度で相手に接すること
15.太刀打ちできない…張り合って真剣に立ち向かうことができないということ
16.とんちんかん…物事のつじつまが合わないこと
17.抜き差しならぬ…いかんともしがたく、動きが取れない状況のこと
18.助太刀…仲間の手助けをすること
19.懐刀…機密情報を知る腹心の部下のこと
20.丸腰…身を守るのに必要な物を持たないこと
21.身から出た錆…自らの悪い行ないによって自らが苦しむこと
全国にある天守閣内や歴史博物館の展示物には必ずと言って「刀剣」があり、美術品として鑑賞できる。
また、最近街中で「刀剣店」に出くわすと、じっと見つめてしまい、刀剣から歴史を感じる一時である。
京都は1200年の歴史があり、そこで育まれた文化や伝統などが今でも光輝いている。
世界各国から一度行ってみたい都市の上位に選ばれ、情緒と風情たっぷりな素晴らしい街に住んでいる事に誇りをもって住み続けたいと思っている。